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<1次産業>収益力向上 継承の鍵
琵琶湖全体の漁獲量の約4割を占める沖島(近江八幡市)は、島内世帯の9割近くが漁業に携わる。
島の漁協の組合員は現在71人と、最盛期の1950年代に比べると半数以下に落ち込み、平均年齢は70歳代。漁獲量は50年代に1万トンを上回ったが、2017年以降は1000トン以下と10分の1に落ち込んだ。
漁協組合長を務める奥村繁さん(74)は「かつてのような活気がなく、気持ちがなかなか上向かんわな」とため息交じりに話す。
中学卒業後、父の漁船に乗り、琵琶湖のスジエビやホンモロコなどをとってきた。湖魚料理という滋賀の文化を縁の下で支えてきたと自負する。だからこそ、「漁業を魅力的で、安定した仕事にしなければならない」と、次代への継承に強い思いを持つ。

後継者の一人として期待するのが、近江八幡市出身で、沖島の民泊施設を管理する塚本千翔さん(30)だ。
塚本さんは島で魚のPRに関わるうちに「自分でとっていないから言葉が薄っぺらくなってしまう」と感じ、県が国の取り組みを参考に16年度から始めた制度に20年3月、参加することにした。
漁業の担い手確保を目的とした実地研修制度(短期=1週間、中期=半年、長期=3年)。この長期コースに手を挙げ、平日は未明から奥村さんの船に乗り、底引きや仕掛け漁を教わっている。来春の研修終了後は島の漁師として働き、漁師の育成にも取り組みたいと思っているという。
ただ、塚本さんは担い手育成には課題も感じている。同制度には21年度までに延べ55人が参加したが、就業にこぎ着けたのは16人。
研修の実態について、塚本さんは年齢が離れ、経歴が全く異なる若い世代が漁師と1対1の日々を送るという人間関係での難しさを指摘する。
指導役の奥村さんは「漁師も自分の殻を破り、柔軟性を持たなければいけない」と意識改革の必要性を口にするが、塚本さんはそこに行政的なサポートもあれば、という提案をする。
「間に入って客観的に状況を判断し、関係を取り持ってくれる人がいてほしい」
■ワースト2位
農林漁業の収益力を向上させなければ、職業としての魅力が高まらず、従事者を増やすことはできないが、県内の現状は厳しい。
農林水産省は農林漁業者が加工、流通までを一体的に進め、付加価値を生み出す「6次産業化」と呼ばれる手法の普及を促進している。1次産業をもうかるようにし、後継者不足の解消につなげる狙いで、農林漁業の大規模化も進める。
だが、総務省の21年の調査によると、県内の農林漁業は1事業所あたりの売り上げが6444万円で、全都道府県で46位と下から2番目の低さだ。農産物や水産物のブランド力の構築が不十分で、全国や海外への販路開拓が進んでいないことが背景にあるとみられる。
ロシアによるウクライナ侵略で、食料自給率の向上とともに注目されている木材の国内調達においても、苦境が続いている。
国内で消費される木材の多くは輸入で、国産材が占める割合は4割程度にとどまる。米国の住宅需要の高まりを発端に木材価格が高騰する「ウッドショック」が起こり、ウクライナ侵略の影響も重なって品不足が生じている。しかし林業の生産性が低く、国産材への置き換えは進んでいない。
栗東市の森林約400ヘクタールを所有する金勝生産森林組合の沢幸司組合長(83)は「林業の従事者が減って定期的な間伐ができず、森林を保てなくなって質の良い木材の産出ができない悪循環に陥っている」と、現状に強い危機感を持つ。
組合は18年から森林管理で発生する二酸化炭素吸収量を売買できる「Jクレジット制度」に参加し、企業から吸収に伴う資金を得ている。また、栗東市のアウトドアパーク「フォレストアドベンチャー」にアスレチック用木材を提供し、イベントにも協力する。
沢組合長は「若者が林業がお金になり、生業として成り立つと思える環境を作りたい」と力を込める。
(藤井浩、岩崎祐也)