「練乳派」黙らす 熟した甘さ・・・安来のイチゴ
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◇長期間育成 近郊のみ流通
安来市下坂田町のビニールハウスでは今、青々と生い茂る葉の下で真っ赤に実った粒が並ぶ。生産者の石橋賢一郎さん(29)が熟した実から摘み、あっという間に箱は大粒のイチゴでいっぱいになった。
石橋さんはハウス3棟で「紅ほっぺ」を育てる。「甘いのはもちろんですが、ほどよい酸味もあり、バランスがいい」。誇らしげに語り、「そのままが一番。まずは一つ食べてみて」。
赤く熟し、大きい粒を一つ、口に入れると、みずみずしさに驚いた。そしてほどよい酸味、熟した甘みが追いかけてくる。練乳派の記者も、「これには何もつけたくない」と思った。
イチゴの収穫は11月に始まり、翌年6月まで続く。特に寒い冬場を乗り越えて熟れた粒をつける2月初めに収穫するものは甘く大きく育つという。ハウス内では炭酸ガスの濃度を調整して光合成を促す。山陰特有の日照時間の少なさを逆手に取り、時間をかけて育てることで、その長い熟成期間が甘みを強くする。
県農業協同組合やすぎ地区本部によると、同市では中海沿岸を中心に66人が「紅ほっぺ」「
安来イチゴの特色は「完熟収穫」。イチゴは流通を考慮して完熟より早く収穫するが、安来ではぎりぎりまで熟すのを待つ。地元を中心に松江など近郊のみへの出荷となるが、同本部生産流通課の黒田真一係長は「知る人ぞ知るおいしいイチゴとして、消費者の評価は高い」と胸を張る。
市は2014年、市内の女性有志で「いちご女子会」を結成、イベントなどで積極的にPRする。同本部でも、「規格落ち」のイチゴをペーストにして利用することを発案。内側まで赤く熟する紅ほっぺのペーストはきれいなピンク色になり、加工に適する。
女子会とイチゴペーストのコラボでジャムやクッキー、カレーなどの加工品が誕生し、現在は約40種が販売されている。市観光協会職員で「いちご女子会」メンバーの小草里香さん(56)は「安来のイチゴの魅力は産地でしか味わえない完熟の甘さ。観光で来る女性にも大人気」と話す。
小草さんお薦めの「いちごとうふ」を試してみた。市内の老舗豆腐店「
代表取締役の角与志男さん(63)は「温かい豆乳にイチゴのペーストを混ぜると香りが引き立つ」と話す。
安来のイチゴ農家にも高齢化の波は及ぶが、同本部が相談会を開くなどして、5年間で5人が新たに就農した。その1人である石橋さんは「自分の作るイチゴが一番おいしいと思う。親ばかですかね」と笑う。来年度にはハウスをさらに増やすという。これからも甘いイチゴが楽しめそうだ。(土谷武嗣)