茶葉 健康志向で人気・・・江津の桑の木
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◇実はサイダーやゼリーに
手のひらのような濃緑の葉が初夏の日差しに輝いた。江の川べりにある「しまね有機ファーム」(江津市桜江町)の農園では、4月に新芽が出た桑の木が腰の高さまで育ってきた。別の種類の枝には真っ赤に色づいた実。ラズベリーを思わせる色や形で「マルベリー」とも呼ばれる。化学肥料や農薬を使わず栽培するのも売りの一つだ。
同社社長の古野俊彦さん(73)は「蚕の飼料としては需要はあった一方で、食用としての利用は伸びなかった。でも1990年代に入ると、健康によい食品として期待が高まってきた」と教えてくれた。
かつて、旧桜江町では養蚕は一大産業で、桑畑も町内の至るところにあったという。だが、古野さんが脱サラして福岡からIターンしてきた90年代には、養蚕業はすっかり衰え、桑畑も30ヘクタールまでに減っていた。
古野さんは「付加価値をつければ、勝算はある」と考え、50歳を過ぎてから栽培を開始。桑の葉を使った「桑茶」に目を付け、98年には桑の葉や実の加工などを行う会社「桜江町桑茶生産組合」を設立したほか、葉や実を使った様々な商品の開発など「桑の6次産業化」に取り組む。
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町内を中心に同社が所有するなどする桑園計約60ヘクタールで採れる葉は、年間200~250トン。乾燥させると60~80トンの茶葉になる。収穫した桑の葉はその日に自社の工場に運ばれ、洗浄や乾燥、ばいせんを経て、ティーバッグなどに加工される。
県産業技術センターの勝部拓矢さん(52)らがマウスでの実験などで、高脂肪の食事の摂取による動脈硬化の進行を抑制する成分を含んでいることを突き止めた。
勝部さんは「市場の健康志向を背景に、桑の関連食品の需要は伸びそう」と期待する。
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浜田市旭町の旭温泉にある旅館「かくれの里ゆかり」では、ウェルカムドリンクとして宿泊客に、「桜江町桑茶生産組合」がつくった「桑抹茶」を提供している。
粉末を90度の湯に溶かし、茶せんで泡立てる。ほのかに茶の香りが立ち、見た目は抹茶のような薄い緑だが、くせも苦みもほとんどない。さらりとしたのどごしだ。
客室を担当する吉川仁章さん(49)は「桑の葉のお茶は珍しい、見た目よりすっきり、とみなさんが喜んでくれる。地元産で健康にいいとPRしています」と話す。
同社は桑の実からも様々な商品を生産する。果汁のみで作った「桑の実サイダー」もその一つ。着色料や香料などを一切使っていないが、鮮やかな赤紫色は目を引く。味わいもすっきりしている。果汁をふんだんに使った「桑の実ゼリー」も人気だ。
茶文化や養蚕の広がりで日本では普及した桑を、古野さんの長男で「しまね有機ファーム」副社長の利路さん(43)らがヨーロッパに売り込み始めた。「オーガニックブームで需要もあるはず。しっかりニーズを調査して、受け入れられるようにしたい」と意気込んでいる。(岡信雄)