「おかず必要ない」甘さ・・・奥出雲の仁多米
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◇うまみ育む 暑さ歓迎
奥出雲町
小馬木の水田は山間部にあり、8月後半から9月にかけては、昼は30度前後まで気温が上昇するが、夜は15度くらいまで下がる。「昼に作られたでんぷんが、夜に気温が下がることで蓄えられる。他とは甘さが違いますよ」と胸を張る。
「こまき」は2005年1月に、地区の農家13世帯が、後継者不足の解消と農業機械の共有を目的として設立。現在は約40世帯に広がった。
田植えは5月中旬。7~8月にかけて穂が出始め、9月中旬~10月初旬に刈り取る。「肥料は必要最低限しか使わない」と、有機栽培用のものや飼っている牛の堆肥などを使用している。土壌改良材も、土地に合ったものをと、鉄やケイ酸などの栄養を吸収できるオリジナルのものを使っているという。
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奈良時代に書かれた「出雲国風土記」では、仁多は「
1998年、町の全額出資で「奥出雲仁多米株式会社」を設立。「仁多米」のブランド名で本格的にPRを始めた。設立当時は800トンだった出荷量は、昨年は約1200トン、約6億円の売り上げとなった。
「新米が入ったところですよ」。今月21日、同町三成にある「仁多米食堂」を訪ねると、料理長の安部健一さん(40)が、そう教えてくれた。米はたっぷりの水で洗うが、最近は精米の機械の性能が向上し、「すすぐ程度でも大丈夫」という。洗った後は、3~5度の冷蔵庫で1時間ほど冷やし、水を吸収させる。
羽釜を使って30分ほどで炊きあげられた仁多米を食べてみた。炊きたての強い香りが鼻から抜ける。かむと甘みが広がり、「おかずは必要ない」と感じるほどだ。
安部さんの勧めで、15分間、保温されたものも試してみた。炊きたてよりも水分が抑えられ、芯がしっかりしており、食感を堪能できる。粘り気も強くなった感じで、「炊きたてが一番」という考えが覆された。
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今夏は猛暑に見舞われたが、「こまき」の原田組合長は「暑さはむしろ歓迎」と言う。水田に利用されているのは、山から湧き出るミネラル豊富な水。「水が豊かなこの地では(暑いほど)稲穂が立派に育ち、粒の膨らみも良くなる。今年は穂の長さがしっかりしていて、実も膨らんでいる」と笑顔を見せた。
収穫された米は、京都や大阪の百貨店などで販売されているという。「仁多米というブランド名に頼るだけではだめ。将来的には、できるだけ値段を抑え、多くの食卓に仁多米が並ぶことが夢です」。黄金色に輝く水田で新米の収穫が続く。(土谷武嗣)