<安来無理心中>児相の対応「母に負担」
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県報告 人員面 課題も指摘
安来市で2019年12月、母親(当時44歳)が小学4年の男児(同10歳)と無理心中を図ったとみられる事件で、県は14日、外部有識者による児童相談所(児相)の対応などに関する検証報告書を公表した。報告書は、児相が事件1週間前に男児の一時保護を解除した判断は「間違っていたとは言えない」とした一方、母親の支援や児相の人員体制に課題も指摘した。(林興希)
事件は19年12月2日に発生。安来市内のアパート一室で、血を流して倒れている2人が見つかり、男児はその場で死亡が確認され、母親も同18日に亡くなった。県警は20年1月、母親を被疑者死亡のまま殺人容疑で書類送検し、松江地検は不起訴とした。
事件1週間前の11月25日には、県中央児童相談所が男児の一時保護を解除していた。このため、児相の対応が注目され、県は社会福祉審議会児童処遇部会(部会長=山本俊磨・島根大名誉教授)で、有識者による検証を進めていた。
報告書は、母親が男児や周囲に「死にたい」と話すことはあったが、母親の主治医を含め、「自殺に及ぶとは認識していなかった」と分析。一時保護の解除について、母子共に望んでいたとし、大きな問題はなかったと結論づけた。
一方、母親に対する支援や行政側の対応については、課題も指摘した。
児相は保護の解除時、母親に対し、解除の条件などを記した「誓約書」を提示していた。この中で、児相は生活支援を継続して受け入れることなどに加え、「自死(自殺)をにおわせる発言をしないこと」などと求めていた。
こうした対応について、報告書は「母親は、誰にも苦しみを訴えられないと捉えたかもしれない」と推測。相談先を併記するなど、「母親が助けを求めやすくする工夫ができなかったか」とした。訪問看護などによる母親の生活支援についても、「逆に生活スタイルを崩される負担となった可能性がある」と指摘した。
また、再発防止については、行政と医療機関との連携強化の必要性を強調。全国的に深刻な児童虐待事件が頻発する中、「児相に個々のケースに応じた柔軟な支援を行う余裕がなくなっている」として、職員の専門性の向上や余裕のある人員体制の確保も提言した。
報告書を踏まえ、県はこの日、議会で再発防止策などを報告。関係職員を対象とした自殺予防のための研修実施や、児相に保健師や警察官・教員OBを配置したことなどを説明した。
県の寺本年生・青少年家庭課長は、「事件を防ぐことができたポイントも指摘された。課題を多角的に捉え、児童虐待防止に努めていく」と話した。