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    家康の平和願う心 託す

    遊ぶ子供の彫刻は象徴

    • 修理のため取り外された唐子の彫刻
      修理のため取り外された唐子の彫刻

     陽明門の「平成の大修理」が本格化した7月。修復を担当する日光社寺文化財保存会の職員らは、門に施された彫刻の塗り直し作業に入った。

     東照宮の彫刻は5173体。うち1割の508体は陽明門にある。その内訳は、唐獅子などの霊獣194、次いで植物159、鳥類71、人物42などに分かれる。

    • 陽明門に付随する彫刻の彩色を水洗いで落とす日光社寺文化財保存会の職人(8月27日、日光東照宮で)==山田博文撮影
      陽明門に付随する彫刻の彩色を水洗いで落とす日光社寺文化財保存会の職人(8月27日、日光東照宮で)==山田博文撮影

     この中で特別な意味が込められたとみられるものは? 「それは『唐子(からこ)遊び』といわれる子供の彫刻です」。元神職の高藤晴俊さん(65)は指摘する。

     人物を用いているのは唐門と陽明門だけ。唐門が6体64人であるのに対し、陽明門は42体156人にのぼる。

    • 高藤晴俊さん
      高藤晴俊さん

     「唐子遊び」は中国風の装いをした子供が遊んでいる彫刻だ。2層建ての陽明門の中央にある高欄と呼ばれる欄干に横一列で並んでいる。ここに計20体、87人の子供がいる。

     最も目立つ南側正面の中央にあるのが「司馬温公の甕(かめ)割り」をテーマにした彫刻だ。温公が子供の頃、父の大切にしていた水甕に落ちた友を救うために甕を割った逸話にちなみ、どんな物より人命が尊いことを伝える中国の故事に基づくものだ。

    • (上)色あせた鳳凰の彫刻に彩色が施されると、鮮やかな色がよみがえった(下)彫刻の見取り図を描き、色彩を再現することが修復の第一歩
      (上)色あせた鳳凰の彫刻に彩色が施されると、鮮やかな色がよみがえった(下)彫刻の見取り図を描き、色彩を再現することが修復の第一歩

     ほかにも「鬼ごっこ」「ジャンケン」「木馬遊び」などに興じる生き生きした子供の姿、「孟母三遷(もうぼさんせん)」を表した勉強に励む子供も彫られている。

     「なぜ、遊んでいる子供の彫刻が陽明門の中心にあるのか、長い間、謎でした」。1972年に奉職して東照宮の研究を続ける中で、高藤さんは結論にたどり着いた。この子供の彫刻の配置にこそ、陽明門に託された幕府のメッセージが秘められていた――。

    • (上)色あせた鳳凰の彫刻に彩色が施されると、鮮やかな色がよみがえった(下)彫刻の見取り図を描き、色彩を再現することが修復の第一歩
      (上)色あせた鳳凰の彫刻に彩色が施されると、鮮やかな色がよみがえった(下)彫刻の見取り図を描き、色彩を再現することが修復の第一歩

     建築史が専門の大河直躬・千葉大名誉教授(84)によると、陽明門ほど評価が分かれ、議論された建造物はない。「明治から大正にかけては『日本の代表的建築』と称賛され、その後は酷評された」

     評価を大きく変えたのは1933年から36年まで日本に滞在したドイツ人建築家・ブルーノ・タウト(1880~1938)だった。タウトは桂離宮や伊勢神宮の枯れた美をたたえる一方、陽明門に対しては、権力者の命を受け、華美な装飾を施したものなどと厳しく批判した。

     その影響は戦後まで残った。「陽明門を建てた徳川家光公の真意は、タウトには分からなかったのでしょう」と高藤さんはおもんぱかる。創建時の姿を一新した陽明門に込められた理念――。「それは家康公の平和への願いです」と高藤さんは言い切る。

     「遊ぶ子供の姿は平和な世の中のシンボル。多様な霊獣や動植物のほか、子供の彫刻を陽明門の中心に配すことで、徳川家だけでなく、末永く全ての生き物が平和に暮らせる世を構築する。そんな社会を目指していこうという家康公の思想を具体化した建物なのです」(おわり)

    ■謎の霊獣「息」

    • 正体不明の霊獣「息」
      正体不明の霊獣「息」

     東照宮の建築美は、数多くの彫刻に代表されると言われる。ところが、高藤さんが奉職した頃は、その数がいくつなのかをまとめたデータすらなかった。

     そこで神職仲間と6年余りをかけ、彫刻の種類や数を調査した。それによると、東照宮全体では5173体あった。このうち最多は本社(本殿1439、拝殿940、石の間89)の2468体、次いで唐門611体、陽明門508体だった。

     数ある彫刻の中で謎だったのが霊獣「息」だ。陽明門と拝殿だけにあり、18世紀半ばの工事記録「宝暦結構書」にのみ登場する。ただ、「いき」なのか「そく」なのか読み方すら不明だ。

     龍の頭が2段並んでいるかのように見える陽明門の屋根の下。実は、下段は龍ではなく息だ。息は角が一つで牙があり、毛髪はカールしている。上唇にある豚のような鼻孔が特徴で、龍とは異なる。

     高藤さんは「ワニを神格化したものでは」とみる。しかし、新たな史料でも見つからない限り、永遠に謎に包まれたままだ。

    2013年12月13日 00時08分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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