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家族の介護や世話を日常的に担う子供「ヤングケアラー」への支援を強化する動きが、県内でも広がりつつある。那須塩原市では、市民らが協議会をつくり、SNSを使った無料相談などを実施。佐野市は担当のコーディネーターを置き、子供たちへのケアに取り組む。県も本格的な実態調査に乗り出す構えだ。(亀田考明)
「担任の教師に相談しても支援を受けられなかった。家族より自分の夢を優先させることができず、希望する大学の学部には進学できなかった」。那須塩原市の作業療法士・仲田海人さん(28)は、自身がヤングケアラーだった頃の悔しさを打ち明ける。
仲田さんが小学校高学年の頃、3歳年上の姉が精神的に不安定になった。両親だけでは世話をしきれず、自身が毎晩のように姉の相談相手になり、寝るのもままならない毎日。姉が包丁を手に暴れることもあり、静かな環境を求めて庭の物置で夜を過ごす時期もあった。エンジニアの夢は諦め、姉のように苦しむ人の助けになろうと、大学で介護や医療を学んだ。
仲田さんは「当事者の子供には『部活や学業を犠牲にして介護をした経験を価値に変えたい』という思いがある。不用意に介入しようとすると、これまでの努力を奪うことにもなる」と指摘。「問題は、就職や進学など、もっと時間をかけたいことができた時、ケアの役割を放棄できないことだ。当事者の声をきちんと拾い、子供も家族もまるごと支援していく体制が求められる」と訴える。
那須塩原市では昨年、福祉関係者や地域住民らでつくる市民団体を母体に、「ヤングケアラー協議会」(40人)が発足。仲田さんもメンバーに加わっている。会では毎月勉強会を開くほか、市内4か所の小中学校に出向き、教員や児童生徒にヤングケアラーの説明会を実施。昨年夏には、無料通信アプリ「LINE」での無料相談を始め、現在15人ほどの当事者から相談を受けているという。
自治体による取り組みも進む。佐野市は今年度、県内市町では初となるコーディネーターを、家庭児童相談課に配置した。学校から聞き取りをするなどして実態把握に努めるほか、県による研修などで専門性を高めながら、子供の相談に乗っていく。
佐野市が実施した中学2年生906人へのアンケートでは、14人が「ほぼ毎日、世話をする人がいる」と回答。コーディネーターで元小学校長の海老沼信行さん(63)は「まだ自分がケアラーだと認識していない子供がいる可能性がある。相談しやすい環境を整えていきたい」と話す。
県は今年7月、県内の小学6年、中学2年、高校2年の児童生徒約5万人にアンケートを実施する。3月には、介護や医療の専門家らによる有識者会議を設置し、アンケートの質問項目を検討するなど、実態把握に向けた準備を進めていく。