うんてい世界一へ鍛錬
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◇記録に挑戦し続ける 大槻敏文さん 63
公園や校庭にある遊具「うんてい」に挑み続けて20年。鍛え上げた肉体は、還暦を過ぎているとは思えないほど筋骨隆々だ。太い腕で軽快に棒を伝う姿を見た地元の住民からは「うんていおじさん」と呼ばれる。うんていの魅力に取りつかれ、今もトレーニングを続ける。腕の力だけでどこまで進めるか。目指すはギネス世界記録だ。
阿南市羽ノ浦町在住。20歳代の時、ビデオで見た米国の俳優アーノルド・シュワルツェネッガーの肉体美に憧れ、体を鍛え始めた。
うんていとの出会いは、42歳の時。1997年、長さが102メートルのギネス世界記録に認定されている高知県香南市のうんていに初挑戦。筋肉はつき、体力には自信があった。だが、わずか20メートルほど進んだところで腕に力が入らなくなり、あえなく落下。
トレーニングは毎日続けていたのに、歯が立たなかった。「最後まで渡りきりたい」。やり始めたら止まらない性格で、闘志に火が付いた。
自宅にあった鉄棒(高さ約2メートル)で、振り子運動を繰り返してうんていのはしごを伝う感覚を養った。鉄棒に片手でぶら下がり、もう片方には10キロのダンベルを持ち上げる練習もした。
滑り止めには何がいいかも研究。ヨモギの葉を手にすり込むとすべりにくいことをつかんだ。コツを探ろうと、北海道の動物園でテナガザルの行動を数時間かけて観察したことも。
マンションの管理人として働きながら、毎週1回、香南市に通い続けた。そして、あの落下から約11年後、世界一長いうんていを何往復もできるようになった。
テレビ番組でうんていの企画にも出演して注目を浴び、昨年10月には、長野県木祖村の観光施設「こだまの森」で開かれた「うんてい王決定戦」に初出場し300メートルの記録で優勝した。
年齢の衰えはまったく感じない。身長1メートル72、体重70キロ。今でもトレーニングは一日も欠かさず、ベストの体形を維持する。
今では、多くの人から声をかけられるようになったが、満足はしていない。この競技の最長記録は425メートル。競技後、その数字が頭から離れなくなった。今月下旬、長野を訪れ、再挑戦する。「今度は必ず記録を塗りかえる」。挑戦は続く。
【うんてい】 はしご状の遊具で、水平だけでなく、弧状に設置するタイプもある。太さや長さ、金属製の棒の間隔などの規定はない。国土交通省の2016年度の調査では、全国の自治体が管理する都市公園で、計4688基が設置されている。長野県木祖村の観光施設「こだまの森」は、全長100メートルのうんていを足を着かずに進んだ距離を競う大会を16年から行っている。
<おおつき・としふみ> 1955年、阿南市羽ノ浦町で生まれる。18歳で地元の建設会社に就職。自動車洗車業などの職を経て、現在はマンション管理人として働く。筋トレは30年以上欠かしたことがないという。
◆取材後記
◇ひたむきな姿印象的
練習後に必ず書くという「うんてい日記」を見せてもらった。進んだ距離や気温、その日の反省などが記され、日々進歩する証しが見て取れた。「うんていに終わりはない」との言葉に納得した。
一方で、日記には公園で出会った親子連れらと触れ合う様子もつづられていた。練習に同行した公園で「うんていを通じて、子どもたちに自分の可能性に挑戦する楽しさを伝えたい」と話す姿が印象的だった。
大槻さんの素早い腕の運びを夢中で見入る子どもたち。ひたむきに取り組む姿勢が、子どもたちにも届いているに違いない。
(三味寛弥)