<下>甘い見通し 混乱招く
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今年6月の市議会総務委員会で、市側から衝撃の報告がなされた。新ホールの工期が5年程度伸び、費用は約141億円に膨らむことが判明したという。地中から移設が必要な高圧ケーブルが新たに見つかる誤算があったといい「めちゃくちゃな金額だ」と批判が相次いだ。
市は再検討したが、工期は1年、事業費3億円の圧縮が限界。結局、再開発事業でのホール取得費156億円と大差ない結果になった。8月、JR徳島駅西側での建設は断念され、市は市立文化センター跡地で検討すると表明した。
市長の遠藤彰良は「問題点を把握できないままスタートしてしまった。反省し、やり直すほうがいいと判断した」と釈明。完成時期は2023年度を維持し、事業費は100億円以内を目指す考えを示した。
ただ、センター跡地は約4500平方メートルと駅西側よりも手狭。都市計画上の制限や埋設物の関係で建設面積はさらに限られ、十分な駐車場が確保できないなど課題も多い。
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市は9月市議会で大ホールは「1500~1000席で検討する」と表明。10月12日に発足した検討会議には、担当課だけでなく財政部の幹部も出席。市の財政運営は厳しく、21年度に約70億円の財源不足に陥るとの危機的な状況を説明し、1500席で進んできた規模の軌道修正を図った。
検討会議の委員からも「華美な施設は要らない」との意見が出され、市は1200席を3案、1500席を1案提示し、建設費は77億~67億円と見込んだ。1か月足らずの間で計4回の会合という「強行軍」の末、11月5日には1200席を基本に、必要に応じて席数を増やすとの意見がまとまった。
山中英生会長(徳島大教授)は、新ホールの計画が持ち上がった当初から市民会議に加わってきた。迷走を四半世紀、近くで見続けてきた一人だ。「もう4回も候補地を見直しており、
会議では「なぜこれまでの候補地が駄目なのか、市から全く説明がない」「終わりをきっちりしないから、次の場所でちゃんと検討ができない」と、市の姿勢を疑問視する意見も相次いだ。
候補地が変遷し、それに伴い施設規模の修正も図られた。そうした過程を経て煮詰まった市民会議の意見は、四半世紀を総括するものであったはずだ。
ところが、遠藤の出した結論は会議の結論とは違った。市は12日、大ホール1500席にリハーサル室などを設け、23年度の完成を目指す整備方針を決めた。
一流アーティストの公演が誘致しやすいとされる席数で、遠藤は「徳島には有名アーティストが来ないとのあきらめがある。若い人にワクワクしてほしいが、文化センターと同規模では解決できない」と説明する。
市の甘い見通しは混乱と停滞を招き、何度も意見を聞いた末にひっくり返す「ちゃぶ台返し」が続いてきた。市議会でも「思いつきの行き当たりばったりだ」「何のための検討会議か」との批判が出ている。
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市は、12月3日に開会する市議会に新ホール整備の関連予算を提案する方針だ。本当に多くの市民が納得でき、県都にふさわしいホールとなるのか。市民が待ってくれるのは、これが最後かもしれない。(敬称略)
◎この連載は矢野彰が担当しました。