<1>移住 IT決め手

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旧旅館を改装したサテライトオフィスで働く西村さん(右)。遠方のスタッフや東京の本社とテレビ電話で常時つながっている職場は、ITを存分に活用することでコミュニケーションを図っている(三好市で)
旧旅館を改装したサテライトオフィスで働く西村さん(右)。遠方のスタッフや東京の本社とテレビ電話で常時つながっている職場は、ITを存分に活用することでコミュニケーションを図っている(三好市で)
自宅の庭にある窯でピザを焼き、家族との休日を楽しむ西村さん。「都会ではありえない時間をつくれます」と笑う(三好市で)
自宅の庭にある窯でピザを焼き、家族との休日を楽しむ西村さん。「都会ではありえない時間をつくれます」と笑う(三好市で)

 ◇家族と幸せな時間

 三好市の自宅庭。西村耕世さん(38)一家が集まり、窯の中でピザが焼けるのを心待ちにしていた。妻実希さん(38)と、小学2年の長女真愛さん(8)、幼稚園に通う次女唯愛ちゃん(5)。

 週末は昨春にUターンした父宏明さん(64)、母秀美さん(63)も交え、食事をするのが恒例だ。「大阪にいたら考えられん時間やなあ」とつぶやく西村さんは2014年に移住してきた。

 西村さんは大阪で生まれ育った。両親の古里で、子どもの頃によく遊びに来ていた三好での暮らしを選ぶことになるとは思いもよらなかったという。

 転機は13年、祖母が亡くなったことだ。家の風通しや畑の様子を見回りに定期的に訪れていた。車で片道3時間強、交通費もかかるが祖父母の家を放っておけなかった。そんな折、宏明さんが声をかけた。「一緒に帰るか」

 当時、西村さんは高校生向けの進学情報誌を発行する出版社に勤務。「高校生にとっての進路は人生の道しるべ」との自負を持ち、仕事は充実していた。

 しかし、締め切りが迫ると忙殺された。午前6時に大阪府吹田市のマンションを出て、帰宅は終電。寝顔の娘にしか会えない生活に加え、マンションでは近所付き合いが乏しい。「仕事が稼ぐこと、生きていくためだけのものになってないか」と疑問がよぎるようになった。それだけに父の提案は西村さんの心に突き刺さった。実希さんも快諾し、移住を決めた。

 業務の整理を終えて退職。10月15日に三好に向かった。昼下がりに祖父母の家に到着すると早速、近所に住む顔見知りのおじさんが「あしたの祭りやけどな、神輿担みこしかいてや」と法被を渡してきた。地区は4年に一度の祭りの当番。高齢者ばかりのところ、若い担ぎ手として当てにされていたらしい。翌日、「ヨイヤサー」と一緒に神輿を担ぐうちに「三好の仲間に加われた」と実感した。

 新たな勤め先は、08年創業で企業の人事評価制度の構築などを請け負う「あしたのチーム」(本社・東京)。サテライトオフィス(SO)を13年、三好市内の旧旅館に設けた。

 地元出身の6人が、資料作成や顧客からの問い合わせに応じる。残業は遅くても午後8時まで。今春、新卒の仲間がもう1人、加わるという。

 こうした働き方ができるのは、パソコンやインターネット、テレビ電話などのIT(情報技術)の発達があったからだ。

 西村さんは、福井県鯖江市や鹿児島県錦江町などにあるSOで働く約20人を統括。コミュニケーションは毎日、テレビ電話でとる。「表情やしぐさ、声の調子……。同じ場所にいないからこそ、目配りが大切」とスタッフの様子に気をつかうという。

 仕事に余裕が生まれたおかげで、地域のことに目を向けることができるようになった。2年前から、中高校生を対象にした出前授業で「地元で働く」をテーマに話している。約20回こなしたという。

 東京と三好とでは年収に差はあるが、東京では出費も多い。何よりも都会では「時間」が犠牲になると強調する。

 片道2時間の“痛勤”は当たり前。8時間働いたとして1日の半分を仕事のために費やす。かたや西村さんの通勤時間は車で片道15分。生徒らに「時間は平等。ゆとりある生活はどっちだろう」と投げかける。人生で大切にしたいことは何かを考えてほしいと思う。西村さんにとっては「家族との時間」だった。

 休日は、趣味の釣りや畑仕事に草むしり、地域行事の参加と目まぐるしい。行きつけの飲み屋では、ほかのSOで働く人や地元の商店主らと付き合う。会社との往復しかなかった頃と比べ、自由を取り戻した実感がある。「田舎がスローライフって、うそですよ」と笑う。

 父の時代には1学年200人いたという小学校も、今は全校で70人足らず。近所からは「子どもの声が聞こえるだけで幸せ」といわれる。「地域のために役立ちたい。それができる働き方です」(浦一貴)

 ◆県内では62社がSO開設

 徳島経済研究所によると、県内では62社がSOを開設。神山、美波両町といった先進地から三好市、美馬市といった県西部などにも開設の動きが広がっている。光ファイバー網の整備や補助金などの支援制度の充実が後押ししているとみられる。研究所によると「四国の各県も徳島を見習って、SO開設の動きを強めている」と分析する。

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60904 0 次代の扉 四国の平成 2019/01/01 05:00:00 2019/01/01 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190102-OYTAI50006-T.jpg?type=thumbnail

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