<2>瀬戸芸 島に希望生む

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スペイン人アーティストの作品「男木島の魂」(男木交流館)のそばで談笑する佐藤さん(左)と福井さん(左から2人目)ら島民(高松市の男木島で)
スペイン人アーティストの作品「男木島の魂」(男木交流館)のそばで談笑する佐藤さん(左)と福井さん(左から2人目)ら島民(高松市の男木島で)

 ◇移住者増え 地域の力に

 瀬戸内海に浮かぶ高松市・男木おぎ島で昨年12月、防災訓練が行われた。小高い山の斜面にある集落から、若い人たちに声を掛けられ、お年寄りたちが狭い路地を次々と下りてきた。

 訓練の中心に移住者たちがいた。瀬戸内国際芸術祭が誘い水となって、これまでに18世帯40人が島に移り住んだ。島民約170人の2割を占める。「外を歩いてもすれ違うのは猫ばかりだったが、今は人とあいさつができるようになった」。2010年の芸術祭初開催に連合自治会長として関わった佐藤格さん(77)は感慨深げに語った。

 芸術で人と人を結び、地域の活性化を図る――。前年、芸術祭側から開催への協力を依頼された。芸術のことは分からなかったが、「島を何とか変えたい」との思いは強かった。

 戦後間もない頃、1200人以上いた島民は、過疎化で09年には210人に減少。11年春の市立男木中の休校も決まっていた。

 そんな島が一変した。港には貝殻をモチーフにした「男木島の魂」(男木交流館)が建ち、民家の外壁はカラフルな壁画に変わった。会期中、計9万6000人が訪れ、住民は観光客の案内などで協力した。

 ◇

 会期後も残されたアート作品を目当てに島を訪れる人は絶えず、移住者が現れ始めた。

 今の連合自治会長を務める福井大和さん(41)もその一人。18歳で島を離れ、大阪で会社を経営していたが、13年の芸術祭に仕事で関わったことを契機に、妻順子さん(44)と長女ひなたさん(15)の家族3人で14年に移り住んだ。

 この頃、別の子育て世代の2世帯10人も移住を希望しており、福井さんはまず、休校した小中学校の再開に取り組んだ。島民だけでなく、芸術祭に関わった作家の協力も得て、約900人分の署名を集め、市に提出。14年春に小中学校、16年に保育所が再開した。

 同年、順子さんが中心となって古民家を改修し、カフェもある私設図書館を開館した。「新旧の島民が交流する場が必要」との思いがあった。

 観光客や住民が気軽に立ち寄り、放課後には子どもたちが遊んだり、宿題をしたりする。移住希望者も相談に訪れる。

 ◇

 島の何が人を引きつけるのか。芸術祭に参加し、そのまま移住した彫刻家・大島よしふみさん(64)はこう話す。「家を少し留守にしただけで、近所の人が心配して騒いでくれる。住民同士が気にし合う島。この雰囲気が好きだ」

 移住者は漁師をしたり、美容室やカフェを開業したりし様々。彼らは祭りなど地域行事に加わり、新旧島民の交流は深まっている。

 島らしい光景がある。集落の道は狭く、家庭のゴミは港まで運ばなければならないため、新しい人たちが中心となって、お年寄りの家を回って収集している。島には古くから助け合いを意味する「公力こうりき」という言葉があり、元連合自治会長の佐藤さんは「島の精神が戻ってきたようでうれしい。将来に残してほしい」と願う。

 昨年は4世帯9人が移住してきて、赤ちゃんが3人誕生した。4月には4度目の芸術祭が開幕する。福井さんは「もっと移住者を増やしたい。島が一つになって魅力を発信していくことが必要で、3年に1度の芸術祭は大きなチャンス」と将来を見据える。

 始まった島の再生は次の時代へ続く。(伊藤孝則)

 ◆アートで街づくり

 アートを用いて地域活性化や街づくりを行う動きは各地に広がっている。

 松山市では2014年4~12月、道後温泉とその周辺で「道後オンセナート」を初開催。道後温泉本館などを現代アートで彩り、草間彌生やよいさんら芸術家が、ホテルや旅館の客室をデザイン、一般客が宿泊できるイベントなどを展開した。17年9月から2回目となる「道後オンセナート2018」(19年2月28日まで)が行われている。

 高知県須崎市では、市民らが、県外からアーティストを招き、滞在制作してもらうイベント「現代地方たん」を実施。作品は、すさきまちかどギャラリー(旧三浦邸)や銭湯跡など複数の会場に展示し、来訪者に街を巡ってもらう。今月19日に「現代地方譚6」が開幕する。

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60880 0 次代の扉 四国の平成 2019/01/03 05:00:00 2019/01/03 05:00:00 島民と話す佐藤さん(左)と福井さん(左から2人目)(男木島で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190102-OYTAI50078-T.jpg?type=thumbnail

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