<4>甘い宝石 実る愛情

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たわわに実った紅まどんなを収穫する石原さん(松山市で)
たわわに実った紅まどんなを収穫する石原さん(松山市で)

 ◇高級柑橘 紅まどんなへの挑戦

 瀬戸内海に浮かぶ松山市の中島。師走の柔らかな日差しが降り注ぐビニールハウスの中で、赤みがかったオレンジ色の柑橘かんきつがたわわに実っていた。

 果実はソフトボール大で、ずしりと重い。外皮をむくと果汁があふれ、爽やかな香りを放つ。内皮は薄く、果肉はゼリーのように甘くとろける。名前は「べにまどんな」。栽培農家の石原和徳さん(39)は、最盛期を迎えた収穫の手を休め、「平成の時代に、愛媛が生んだ宝石のような果実」と胸を張った。

 紅まどんなの開発は1990年(平成2年)に始まる。当時、温州ミカンの生産過剰が影響し、柑橘の価格や消費の低迷が続いていた。

 愛媛県農林水産研究所企画環境部長の喜多景治さん(60)は81年から研究に取り組んでいた。松山市の実家はミカン農家で、愛媛大農学部では柑橘学を専攻。特産を思う気持ちは人一倍強かった。

 既存品種を交配し、種子を発芽、生育させ、接ぎ木する。実がなるまでに5年かかった。約3万5000通りを掛け合わせ、試食した。大半がまずく、皮がむけなかったり、果汁がなかったりする失敗作もあった。

 90年春に交配したのが、甘みが強くて味が濃厚な「南香」と、果汁が多くて風味豊かな「天草」。「双方の魅力をうまく取り込み、実はみずみずしく大きかった」。ヒットの予感がした。

 高品質の果実を選抜して交配を繰り返し、皮が腐りやすい欠点も克服。2005年に「愛媛果試第28号」として品種登録され、市場への出荷が本格化した。

 栽培は愛媛県内に限られ、17年産の収穫量は3000トンを超え、5年前から3倍以上に増えた。

 紅まどんなはJAの登録商標だ。愛媛ゆかりの夏目漱石の小説「坊っちゃん」にちなみ、「憧れのマドンナのような麗しい果実」を意味する。

 全ての果実が名乗れるわけではない。統一の品質基準があり、形や色付きに加え、光センサーによる検査で糖度や酸味の基準もクリアしたものにだけ許されるブランドだ。

 首都圏の百貨店で試食販売を重ねたこともあり、高級品として浸透。JA全農えひめ果実課専任課長の山本洋司さん(51)は「愛媛の柑橘ブランドを復活させた救世主」とたたえる。

 果実は皮が薄く繊細だ。中島のハウスで05年頃から栽培する石原さんは「収穫まで気が抜けず、苦労は多い」と明かす。

 高校卒業後、愛媛県立農業大学校で1年間学んだ。00年に中島へ戻り、家業のミカン栽培を手伝い始めたが、出荷するほどに赤字が膨らむような窮状だった。

 そんな頃、JAから「有望な品種」と紹介されたのが愛果28号だった。1キロ当たりの価格はミカンの20倍前後になると聞き、「苦境を抜け出すにはこれしかない」と直感した。

 まずはハウスを建てる必要があり、両親から受け継いだミカン畑の半分を潰した。1棟200万円ほどする資材はリースで調達し、自分らで組み立てた。

 栽培は苦労の連続だった。実がなるまで5年待った後も、室温の管理が難しく、花が落ちたり、実が腐ったりした。出来栄えで卸値が左右され、収入は思うように伸びなかった。

 毎日ハウスに詰め、最適な温度や害虫の防除方法を探り、一本一本を丹精込めて世話した。

 栽培規模は広がり、今ではハウス3棟で約200本を育てる。ここ数年の実りは紅色が鮮やかさを増し、一回り大きくなった。手応えとともに周囲の評価も高まり、納得できる値が付くようになった。

 17年に結婚し、18年8月には長女を授かった。充実した日々を過ごす。「育てがいのある果実に自分も成長させてもらった」と笑い、「よりおいしく、美しい紅まどんなを多くの人に届けたい」と誓った。(辻井花歩)

 ◆商標登録広がる

 各地の名物を商標登録する動きが広がる。2006年に特許庁の地域団体商標(地域ブランド)の登録が始まり、昨年11月末現在で645件に上る。ブランドの模倣を防ぎ、差別化を図る狙いで、四国では「なると金時」(徳島)や「小豆島オリーブオイル」(香川)、「西宇和みかん」(愛媛)や「土佐打刃物」(高知)などが登録される。このほか、「四国一周サイクリング」といった4県にまたがり、地域資源を活性化に役立てる試みも進む。

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61237 0 次代の扉 四国の平成 2019/01/06 05:00:00 2019/01/06 05:00:00 紅まどんなを収穫する石原さん(12日、松山市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190105-OYTAI50018-T.jpg?type=thumbnail

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