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◇IL発足15年目 地域に元気
「投げ終わったときに右足が前に出るようなイメージで投げてみて」「力まないで投げよう」
昨年12月16日、三好市の吉野川運動公園野球場で開かれた「蔦文也杯記念野球教室」。四国アイランドリーグplus(IL)・徳島インディゴソックス(IS)の選手ら7人が身ぶり手ぶりで地元の中学生を指導していた。高校野球史に輝く名将の名を冠した毎年恒例の野球教室にISが参加して9年目。市教委生涯学習・スポーツ振興課の前田拓也さん(35)は「過疎化、少子化が進む地域に元気を与えてくれる」と話す。
ILが掲げる地域貢献として、県内各地の野球教室に出向き、地域のイベントに足を運ぶ。シーズン中は公式戦で県内各地を巡り、訪れた観客が選手たちのプレーを温かく見守る。昨年秋にプロ野球・千葉ロッテから育成ドラフトで指名された鎌田光津希投手(23)は「地域の方々の声援があって野球ができていると感じる」と感謝する。

今年で発足15年目を迎えるIL。所属チームが休廃部に追い込まれたり、ドラフト指名で漏れたりした若者に門戸を開いてきた。外国人や復帰組を含めて約60人がNPB(日本野球機構)へ。2度の首位打者に輝いた千葉ロッテの角中勝也選手などプロで羽ばたいた選手もいるが、その陰で夢破れた選手がほとんどだ。IL理事長の坂口裕昭さん(45)=写真=は「ILは野球を続けられる場だが、とことんやって諦める場でもある。選手には次のステップに向かうために野球をやり切ってほしい」と話す。
神奈川県出身の坂口さんは、弁護士からILの経営に参画した異色の経歴の持ち主だ。子どもの頃の夢はプロ野球選手。リトルリーグで野球に打ち込んだが、高校では運動部の雰囲気になじめず、勉強との両立も困難と考えて野球を続けなかった。
東大卒業後に弁護士となり、企業再生などを手がけてきた。その傍ら、弁護士仲間の草野球チームでプレーするなど野球好きは変わらず、国内の独立リーグのトライアウトに挑戦したこともある。
2010年秋、ILのCEO(最高経営責任者)だった鍵山誠さん(現・日本独立リーグ野球機構会長)と知り合い、経営難に陥っていたISの運営を打診された。生来の野球好きの血が騒ぎ、「弁護士経験を生かして球団の経営を再建させたい」と承諾した。
弁護士活動を中断してでも引き受けた理由には、高校で野球を続けなかった後悔の念があった。「不完全燃焼のまま大人になった自分に決着をつけたい」という感情と、「選手たちが納得するまでプレーし、自分のように悔いを残さないでほしい」という思いが重なった。
ISでは、小口のスポンサーの獲得に乗り出すなど収入を増やし、経営を安定させた。その手腕を買われ、15年からIL事務局長、18年からは理事長を務める。試合や営業などで国内外を飛び回る日々だが、仕事の原動力は、自らの夢に向かって突き進む選手への敬意だ。
ILは地域に定着するものの、収入は伸び悩む。今年のNPB入りは過去最少の1人と振るわなかった。坂口さんは言う。「企業と提携し、集客につながる仕掛けを打ち出しつつある。今後、10年、20年とILが続く仕組みを完成させたい」。視線の先は新たな時代を見据えている。(萩原大輔)
◆Jリーグでも躍進
1993年(平成5年)に発足したサッカー・Jリーグでも四国勢が台頭した。2005年に徳島ヴォルティスが四国のチームとして初めてJ2入り。翌06年には愛媛FCが、14年にはカマタマーレ讃岐が続いた。徳島は14年に初めてJ1に昇格したが、わずか1年で降格した。讃岐はJ2で毎年のように残留争いを繰り返してきたが、昨季は最下位で今季はJ3で戦う。
J3の下部にあたる日本フットボールリーグ(JFL)で、元日本代表監督の岡田武史さんがオーナーを務めるFC今治は来季のJ3入りを目指すほか、高知県でも高知ユナイテッドが将来のJリーグ参入を目標に四国リーグで戦う。