雷、温室効果ガス、一般相対性理論・・・スカイツリーは巨大な観測施設?[連載・ツリーとともに](4)

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 《skytree》

開業日に結婚 私たちも10年 ツリーの歴史は家族成長の歴史[連載・ツリーとともに](7) 

 2020年8月13日夕、電力中央研究所(千代田区)の主任研究員・三木貫(とおる)さん(41)のスマートフォンにメッセージが入った。東京スカイツリーに雷が落ちた、という知らせだ。

 この日の都心は朝から快晴。しかし夕方になると黒い雨雲があっという間に空を覆い、激しい雨とともに稲妻が轟音(ごうおん)をたてて何度も光った。そのうちの一つがツリーに命中した。

 三木さんは数日後、ツリーの天望デッキの下にある観測室に駆け込んだ。雷の電流の測定器には「10万1000アンペア」の表示。ツリーでこれまでに計測した最大値だ。「よしっ、大きいのが観測できた」。三木さんは拳を握りしめた。

地上497メートルに設置された測定機器

雷の電流を計測する銅製コイルについて説明する電力中央研究所の三木さん

 雷はいつどこに落ちるか予測できず、観測が難しい。だがツリーは高さが634メートルもある上、周囲は低い建物ばかり。ここならピンポイントで年間10回ぐらいは落ちそうだ――。以前からツリー側に雷対策をアドバイスしていた同研究所は、ツリー建設中から研究拠点として目をつけ、観測機器の設置を申し出た。

 ツリーはテレビの電波塔としての役割も担っており、塔体に取り付けてある機器が落雷で損傷したら、家庭のテレビが映らなくなる恐れがある。同研究所が24時間態勢で落雷を観測し、共同で対策を立ててくれるのはツリー側にとっても、渡りに船だった。

 雷の電流を測定するため、銅製の「ロゴスキーコイル」(直径約20センチ)をツリー最上部のアンテナ塔の根元(地上497メートル地点)を囲むように全長30メートルにわたって設置。放送事業者向けに用意していた地上300メートル付近の部屋を観測室に衣替えし、測定データを受信する機器類を置いた。

 これほどの高さの建物に設置されている雷の測定装置は世界でも例がない。「誰もやったことのない大役を任されたぞ」。12年2月末のツリー完工直後、三木さんは身の引き締まる思いで観測を始めた。

10年弱で計96回、最新の雷データ

 建築物への落雷対策を取るには、雷の電流の大きさ、流れる時間などの観測データを豊富に集め、実態に迫りたいところだ。しかし現在、対策に用いられているデータは、1955~73年にスイス山中の鉄塔に落ちた雷から収集したもの。電流の大きさは1000アンペア~20万アンペアと判明はしているが、半世紀も前のデータで、周辺の環境も日本の都心とは大きく異なる。以前から国内での観測が求められていた。

 雷がツリーのアンテナ塔の最上部に落ちると、鉄骨を伝って地面に向かう電流をロゴスキーコイルが感知する。三木さんはそのたびに観測室に足を運び、データをこつこつと集めた。その数は昨年末までの10年弱で計96回。ツリーに落ちる雷の電流はスイスのものと比べると、1・2倍ほど大きいという傾向が見えてきたが、「統計としてはまだまだ少ない。何かがわかったとは考えていない」。研究者らしく、慎重に目の前のデータに向き合っている。

「雷の真相を解明する」、ツリーとともに抱く夢

 電気事業連合会の調べでは、国内で2019年度に起きた停電などの電気事故1万4494件のうち、雷が原因となったのは1188件と全体の1割を占めた。大規模な停電となれば、経済的損失は計り知れない。

 このため電力各社は、送電線を結ぶ計約24万基の鉄塔の落雷対策などに、年間数千億円という膨大な保守費用をかけている。もしツリーでの観測で雷の実像に近づけたら、より効率的な対策を取れるかもしれない。「雷の真相を解明し、人々の暮らしに役立ちたい」。安定した電力の供給とコストダウン――。この両立が三木さんの目指す道だ。

高度生かし観測様々

 雷観測のほかにも、ツリーでは高層建築物であることを生かした様々な観測が行われている。

 地上250メートル付近では国立環境研究所が大気中の温室効果ガスの濃度を測っている。上空なら均一に混ざった大気を観測でき、排出された温室効果ガスの量を正確に測定できるという。

 防災科学技術研究所は458メートル地点で、雲を構成している水滴「雲粒」の数や大きさを調べている。雲がかかりやすいツリー上部は理想的な観測場所で、局地豪雨や気候変動の予測に役立つという。

 過去にはヒートアイランド現象の観測や一般相対性理論の検証が行われたこともある。ツリー運営会社の担当者・工藤裕之さん(47)は「ツリーが科学研究に役立つなら、とても誇らしい。空きスペースはまだありますよ」と話す。

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