開業日に結婚 私たちも10年 ツリーの歴史は家族成長の歴史[連載・ツリーとともに](7)
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新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きを見せていた昨年11月7日、東京スカイツリーに、千葉県柏市から吉岡秀人さん(35)、妻の布紗香(ふさか)さん(34)、長男煌人(あきと)君(8)、次男蓮人(れんと)君(5)の4人家族がやって来た。
吉岡さん一家は毎年5月22日のツリー開業記念日、4階エントランスに貼ってある記念ポスターの前で家族写真を撮ることにしている。この日は夫婦の結婚記念日でもあるからだ。しかし昨年は、緊急事態宣言でツリーが臨時休業に追い込まれ、この恒例行事ができなかった。諦めきれない秀人さんがツリーに頼み込み、「9周年感謝祭」と書かれたポスターをこの日のために準備してもらった。
「せっかくなんだから、いい顔しなさい」。最近、人見知りをするようになった2人の息子をなんとか笑顔にさせて、半年遅れの記念写真をパシャリ。「今年もみんな一緒に来られてよかったね」。秀人さんと布紗香さんは息子たちに温かなまなざしを向けた。
「この日なら結婚何周年か、絶対に忘れない」
秀人さんは千葉県野田市の病院で介護福祉士として働き始めた2年目、一つ下の同僚だった作業療法士の布紗香さんと出会った。趣味のフットサルを通じて仲を深め、2年半の交際を経て秀人さんがプロポーズ。布紗香さんはうれし涙を浮かべながら、「お願いします」と二つ返事でOKした。
2人は布紗香さんの25歳の誕生日、2012年5月21日に婚姻届を出そうと考えたが、あいにくの仏滅。翌日はちょうどツリーが開業する日だと知り、布紗香さんが「この日なら結婚何周年か絶対に忘れないよね」と提案。2人は5月22日に家族になった。
開業記念日はツリーとともに

初めてツリーへ遊びに出掛けたのは、翌年の開業記念日。結婚1周年と一目でわかるよう、観光客に人気の天望デッキではなく、4階エントランスに貼られた「1st Anniversary」のポスターの前でカメラに納まった。「毎年このポスターをバックに写真を撮ろうね」。笑顔でピースサインをする布紗香さんのおなかは大きく、2週間後に煌人君が生まれた。
翌14年は3人で記念撮影。天望デッキに初めて上り、秀人さんは抱っこした煌人君に「何でもいいから、ツリーみたいに日本一の男になれよ」とささやいた。3年後の記念写真には、蓮人君も加わった。
開業記念日は必ず休暇を取ってツリーを訪れた。「この日にパパとママが結婚したから、ツリーに来るんだよ」。息子たちに言い聞かせても「ふーん」とわかっているような、わかっていないような。でも、楽しそうにはしゃぎ回る2人の姿がいとおしかった。
2020年に入り、コロナ禍が始まると、大好きな旅行はおろか、外出さえままならなくなった。自宅にこもる時間が長くなり、ささいなことで夫婦げんかが始まった。布紗香さんが車に独り閉じこもることもあった。
昨年8月には、学童保育から帰宅した煌人君が発熱。家族みんなが次々に体調を崩し、コロナ感染が判明した。特に秀人さんは頭が割れそうなほどの痛みで、起き上がれなくなった。幸いにも2週間もすると、みな無事回復したが、息子たちに「お母さんとお父さんが倒れたら隣の家に行くんだよ」と諭すほど布紗香さんも追い込まれた。
家族の危機を乗り越えたいま、布紗香さんは「家族写真を撮れるのは当たり前のことじゃないんだ」としみじみ思う。「息子たちに反抗期が訪れても、この日だけは家族みんなで絆を確かめ合うぞ」。もうすぐ結婚10周年。夫婦は顔を見合わせてほほえんだ。(おわり。この連載は長嶋徳哉、大原圭二、白井亨佳、中村俊平が担当しました)
プロポーズの聖地
ロマンチックな夜景を一望できるスカイツリーの天望デッキは、プロポーズの聖地として知られる。
30回ほどプロポーズに立ち会ったというツリー従業員の増井麻由子さん(41)によると、男性から事前に花束を預かり、タイミングを見計らって渡したり、突然声をかけられてその場で手助けしたりすることもあるとか。昨年はバラを100本用意した男性もいたという。
昨年12月24日のクリスマスイブ、恋人へのプロポーズに成功した足立区の看護師岡本宜之さん(36)は「都内のどこからでも見つけられて、いつでもプロポーズの瞬間を思い出せるから」とツリーを一世一代の場に選んだ理由を語ってくれた。