かわいい 夢中で撮影…続・東京新パンダ物語(下)
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しぐさに自然と笑み

世界各地で様々な動物を撮影してきた写真家の岩合光昭さん(67)は、2003年に初めて野生のパンダの撮影に成功した。それ以前から米国や日本国内の動物園でも、パンダを撮り続けてきた「パンダ通」。そんな岩合さんに、魅力を聞いた。
最初の出会い
岩合さんが初めてパンダを撮影したのは、1973年頃の春。世界各地の動物園にいる珍しい生き物を特集する企画で、米国でジャイアントパンダを撮った。
のんびりしているように見えて、時折、素早い動きも見せる。体全体に丸みがあり、見ていると自然に笑みがこみ上げてきた。
「野生ではどんな生活をしているんだろう」。いつか野生のパンダを撮りたいという夢を抱いた。
野生の姿
その夢がかなったのは、2003年夏。テレビの企画で、中国・陝西省の山々を訪れた。
野生のパンダは音やにおいに敏感で、近づくとすぐに竹林の奥へ隠れてしまう。しかも、滞在からしばらくは雨ばかり。巣と思われる岩穴に無人カメラを仕掛け、宿舎で待機する日が続いた。
なかなか会えないもどかしさに、岩合さんは「空に浮かぶ雲や、まきストーブから出るすすが、パンダの形に見えた」という。
撮影のチャンスが訪れたのは、滞在を始めてから1か月が過ぎた頃。同行した中国の調査員が、岩場でパンダの親子を発見した。
音を立てないよう、ほふく前進で竹林を進むと、突然、目の前に白黒の巨体が現れた。腕には、赤ちゃんパンダが抱かれていた。岩のくぼみの座り心地がいいのか、対峙(たいじ)しても動こうとしない。
しばらく待つと授乳が始まり、岩合さんは夢中でシャッターを切った。初めて、野生のパンダの撮影に成功した瞬間だった。
この時も含め、岩合さんは計6回、中国でパンダの撮影を試みたが、間近に見ることができたのは4回ほど。「今まで出会った野生動物の中で、一番難しい動物の一つ。動物園で見られるのは貴重な体験」と話す。
特別な存在
様々な動物を撮影してきた岩合さんだが、中でもパンダは特別だという。
「僕は、野生動物に対しては、『かわいい』という言葉はおこがましい気がして、あまり使わないようにしている」という岩合さん。だが、丸みを帯びた体で、物をつかんで食べる様子などを見ると、「思わず『かわいいな』と出てしまう。パンダは会うたびにうれしくなる」と語る。
岩合さんは、上野動物園で、シャンシャンの母親「シンシン」と、父親「リーリー」を撮影している。
「パンダは猫のように遊び心のある動物。シャンシャンも、きっと私たちを楽しませてくれるはず」
上野の新たなアイドルも、いつかカメラに収めたいと願っている。