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孤立しがちな医療的ケア児や重症心身障害児の家族同士の交流を支援しようと、杉並区のNPO法人「みかんぐみ」と区立高井戸保健センターが冊子「ピアサポート交流会のつくり方」を共同で制作した。障害児を持つ保護者を支える仕組み作りをまとめたもので、同法人は「不安な気持ちが解消するきっかけになればうれしい」としている。(渋谷功太郎)
官民協働
「ピアサポート」とは、障害者の家族や各種依存症の患者など、同じ困難を抱える人たちが互いに経験を語って支え合う試みのこと。杉並区では、障害児の家族らでつくる「みかんぐみ」と区立高井戸保健センターが2020年度から共同で、障害児を持つ保護者たちが保健師らを交えて悩みを語り合う「ピアサポート交流会」を開催している。これまでに10回行われ、延べ20人が参加した。
官民で協働するのは、それぞれ単独での活動に限界を感じていたからだ。同センターの保健師は日頃の家庭訪問を通じて障害児のいる家庭を把握しているが、アドバイスできるのは人から聞いた経験談にとどまる。保健師の神保宏子さん(61)は「障害児が生まれたばかりの保護者に先輩保護者の生の声を伝えたいと常々考えていた」と話す。
不安解消へ
一方、みかんぐみは障害児家族同士の交流が盛んだったが、「同じ悩みを抱えながら孤立している保護者がもっといるはずだ」と感じていた。みかんぐみが同センターに「会員以外に交流を広げるにはどうしたらいいか」と相談したところ、互いの課題を補い合えると分かり、ピアサポート交流会の実施につながった。
交流会で意識しているのは「正解は一つではない」ということ。相手の意見を否定せず、悩みに共鳴することを心がけているといい、みかんぐみ副代表理事の荻野志保さん(45)は「障害児の家族は将来への不安が強いので、この先こんなに楽しいこともあるんだと伝えている」と語る。
ある母親は、脳性まひで入院中の子供の面倒を自宅で見ることに不安を感じ、「ずっと入院していた方が幸せなのではないか」と思っていたが、交流会で先輩保護者の実体験を聞くうちに考えが変わった。現在は退院した子供と楽しく暮らしているという。
「各地に広げたい」
交流会を通じて、保護者がささいなことも遠慮なく保健師たちに相談できるようになった。両者で制作した32ページの冊子は具体例を挙げながら、自分たちの経験や交流会開催の意義を詳しく記述した。みかんぐみ代表理事の村一浩さん(64)は「孤独や不安と闘う保護者は多くいるはず。官民協働の交流会を各地に広げ、悩む人を一人でも減らしたい」と話している。
冊子は杉並区内5か所の保健センターで配布しているほか、みかんぐみのホームページなどで閲覧できる。問い合わせは区立高井戸保健センター(03・3334・4304)へ。
医療的ケア児とは
人工呼吸器やたんの吸引、経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な未成年者。厚生労働省の推計では2020年時点で全国に約2万人いる。医療技術の進歩により最近10年間で倍増した。昨年6月には、国と自治体に当事者と家族への支援施策を行う責務があると定めた「医療的ケア児支援法」が成立した。