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都立井の頭公園(武蔵野市、三鷹市)の井の頭池で自生する絶滅危惧種の水草「イノカシラフラスコモ」を保護しようと、地元の井の頭自然文化園や環境団体が様々な取り組みを進めている。いったん絶滅したとみられながら、2016年に約60年ぶりに確認された貴重な水草を、関係者らは「絶滅しないよう守るとともに、自然の美しさを伝えていきたい」と慈しんでいる。(広瀬誠)
■展示向け試行錯誤 都などによると、イノカシラフラスコモは1957年、井の頭池で藻類学者によって発見された。その後、周辺の都市化に伴い湧水が枯渇し、水質悪化が進んだ結果、60年代には姿が見られなくなり、絶滅したとみられた。しかし、2013年度から池の水を抜いて水質浄化や外来種駆除を図る「かいぼり」が行われると、公園を管理する都西部公園緑地事務所が16年、池の底で自生するイノカシラフラスコモを確認。底の土中に残っていた胞子が発芽したと考えられるという。
公園内にある井の頭自然文化園は昨年6月から、来園者にその繊細な姿をじっくり見てもらおうと、イノカシラフラスコモの水槽を館内に置いている。
展示にこぎ着けたのは同園職員の田辺信吾さん(51)。20年夏頃から、バックヤードに水槽を置き、ライトの光量や土に混ぜる肥料の種類、水中に混ぜる二酸化炭素の量などを試行錯誤。さらに池の中に毎月潜水して水草を観察するなどして生育方法を探ってきた。コケが大量発生するなどの失敗を重ねながらも、枯死させることなく育てることに成功した。
田辺さんは、井の頭池の他の水草や水生生物と一緒に紹介し、「水草の森」のような展示方法ができるのでは、と可能性を感じている。「『井の頭』の地名を付けられた水草なので、地元で愛着を持たれるようにしたい。実物を観察してもらうことで、東京の池の面白さや池の環境を大切に思うきっかけになれば」と話す。
■陸上、水中から保護 一方、都西部公園緑地事務所は、都立武蔵野公園(小金井市、府中市)でイノカシラフラスコモを育てているほか、各地の研究機関や博物館などに株を提供している。絶滅しないよう生育環境を分散させる「生息域外保全」の取り組みだ。
また井の頭池の環境保全を進める認定NPO法人「生態工房」(武蔵野市)は、ボランティアや都とともに井の頭池の周囲に木の枝を組んだ柵を設けている。豪雨で池に泥が流れ込むと、イノカシラフラスコモは光合成ができずに枯死しかねないためだ。水草を切って食べてしまうアメリカザリガニや、近年急増する外来種の水草・コカナダモの除去も行っている。
佐藤
イノカシラフラスコモ 車軸藻類の一種で日本固有種の水草。全長20~30センチ、茎の直径は0.5~0.7ミリで雄株と雌株に分かれ、生殖器がフラスコに似ていることが名前の由来。環境省の絶滅危惧種に指定されている。