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伝説の男 味わい追求

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純米酒「トップ水雷」「稲田姫」の名前が書かれた稲田本店の貯蔵用タンク(米子市で)
純米酒「トップ水雷」「稲田姫」の名前が書かれた稲田本店の貯蔵用タンク(米子市で)
上原浩さん=家族提供
上原浩さん=家族提供

鳥取の日本酒

純米酒への挑戦(上)

 県内の酒蔵は今、仕込み真っ盛り。日本酒には大きく分けて、米と米こうじ、水だけで造る純米酒と、製造途中で醸造アルコールなどを加える酒がある。米のうまみなど日本酒本来の味わいを感じられるのは純米酒とされ、鳥取県は、全生産量に対する純米酒率が約7割と全国3位を誇る。太平洋戦争末期からの食糧難で純米酒が姿を消した時期もあったが、県内の蔵元が復活に向けて取り組んできた結果だ。その苦難の歴史と、今もうまさを追い求める蔵人たちの姿を取材した。

■食糧難で「アル添」

 伝説の男――。県酒造組合で、そう語られている人物がいた。

 県工業試験場(現・県産業技術センター)の酒造技術者として、県内の蔵元に酒造りを指導した上原浩さん(1925~2006年)。何も加えず、原材料だけで造る純米酒の良さを早くから訴え、県内に限らず、全国に純米酒造りを広めた。

 古代に始まった日本酒造りは、江戸後期に技法を完成させたとされる。蒸し米を麹菌で発酵させ、さらに酵母菌を使ってアルコール発酵させる。原料には大きく米と水しか使わず、米のおいしさを酒として味わえる。

 ところが、太平洋戦争中の1943年、米不足のために試験的にアルコールを添加する酒造りが始まった。戦後も食糧難で米を十分に確保できず、添加は続いた。49年からはアルコールに加え、ブドウ糖や乳酸などを溶かした調味液を投入する「三倍増醸法」が始まり、ますます伝統から離れた。こうして純米酒は一時期、市場で見られなくなった。

■伝統手法に熱意

 「もういい加減にしなければならない」

 上原さんは著書「純米酒を極める」にこう書いた。「アル添(アルコール添加)の登場は、日本酒の危機を救った。そして、歴史的役割を終えるはずであった。(中略)大量にアル添した三倍増醸の酒ばかり出していたら、いずれ消費者に見放される」

 米不足が解消された後も、アル添などが続いた要因にはコスト低減がある。上原さんは、純米酒のおいしさを「清らかさ、爽やかさ、米のうまみに由来する味のふくらみ」と表現しており、アル添すると、それらがかなり損なわれるという。

 上原さんは、県内の蔵元を訪ねては純米酒造りを説いて回り、熱意に応じたのが米子市の酒造会社「稲田本店」だった。終戦から22年を経た67年、玉栄たまさかえという酒造用米を50%削り、伝統的手法で醸造した。その味について、上原さんは「渋く、味に力強さがあった。味のふくらみは私にも初体験のものだった」と記している。

 しかし、この酒は高価なせいもあり、さっぱり売れなかったという。稲田本店の築谷真司・酒造部長は「研究の一環として、試しに造ってみよう、ということだったのではないか」と想像する。

 こうした努力の末、80年代から、県内の多くの蔵元で純米酒造りが始まった。稲田本店では今、「トップ水雷」「稲田姫」の2銘柄を出している。

 ただし、コストの高い純米酒への道は、決して順調なものではなかった。

 「Newニューもん@鳥取」2月シリーズは「鳥取の日本酒」をテーマに連載します。

 日本酒にはかつて、特級、1級、2級の「階級制度」があったが、高い税率を避けようと、あえて2級にする酒蔵もあり、1992年に廃止された。一方で、大幅に削った米を低温でゆっくり発酵させ、特有な香りを出させる吟醸造りの酒が商品化されるなど、多様な酒が登場。そこで国税庁は品質表示の基準として、吟醸酒や純米酒といった8種類の「特定名称」を設け、90年から適用している。

 特定名称ごとに使用原料や精米歩合などの組み合わせがあり、ラベルに「純米」の文字が入った日本酒は、米と米麹以外は使われていない。精米歩合は、玄米を削って残った米の割合で、「精米歩合60%」の場合は、玄米を40%削ったことを示している。

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1838658 0 New門@鳥取 2021/02/13 05:00:00 2021/02/13 05:00:00 2021/02/13 05:00:00 稲田本店が造る純米酒「トップ水雷」「稲田姫」の名前が書かれた貯蔵用タンク(米子市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210212-OYTAI50012-T.jpg?type=thumbnail

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