<回顧2020・百貨店再生> 街の「顔」ニーズに応え
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JU米子高島屋と鳥取大丸
県東西の街の「顔」でもある百貨店が、顧客離れの苦境と新型コロナウイルス禍の中で、新たな歩みを始めた。
売り上げの低迷していた米子高島屋(米子市)は、経営権が大手百貨店・高島屋から地元企業「ジョイアーバン」に移り、「JU米子高島屋」として3月1日に船出した。「経営判断が抜群に速くなった」。そう森紳二郎社長は振り返る。
再スタートと同時にコロナ禍に見舞われる。4、5月は売上高が前年と比べ4割近く減少。厳しい状況の中、9月に地下1階の食品売り場の改装に踏み切った。
野菜と鮮魚売り場の仕入れ先を、東京や九州の業者から隣県の兵庫県新温泉町の業者に切り替え、鮮度が高くて販売価格を抑えた品ぞろえにした。価格が下がった分、売り上げの大きな伸びにはつながっていないが、販売点数は1・4倍ほどに伸びたという。
森社長は「これまでは高島屋の取締役会で承認されなければならず、半年はかかった。スピード感を持って取り組めた」と語る。
9月には5階のファミリーレストランを和食中心の店舗に入れ替えた。1階と地下1階の閉店時間を午後7時に1時間延ばした。
米子市の発行するプレミアム商品券の販売を引き受けたうえで、購入者にはジョイアーバンが隣の旧東館で運営する複合商業施設「GOOD BLESS GARDEN(グッドブレスガーデン)」の利用券を配るなど、連携も進む。「巣ごもり需要」で羽毛布団やじゅうたんなどリビング用品の売り上げも好調という。
森社長は「コロナをきっかけに地方に住みたいという人や企業の移転が増えてくる」と予想。「この流れを百貨店としてどう取り込むかがカギ」と力を込める。
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約11億円かけて大規模改装した鳥取大丸(鳥取市)は4月、全面的に再開業した。理念は「鳥取を笑顔のあふれる街にする」。百貨店という既成の概念を捨て、多くの人が楽しく過ごせる場所づくりをめざす。
象徴的なのが「トットリプレイス」と名づけた5階と屋上だ。「遊ぶ」「楽しむ」「参加する」場所にし、5階に市民らが小物を売る店を出したり、試験的に飲食店を営んだりする場を設けた。約35冊の雑誌を無料で読めるコーナーもある。
売り上げ増加策として、1階の化粧品売り場を広げて、山陰初出店のブランド「ロクシタン」など七つのブランドを新たに導入。4階の生活雑貨店「無印良品」は売り場を1・75倍に広げた。
コロナ禍で4月のオープン行事は中止になり、4月末から約1か月間は閉店時間を1時間早めた。それでも昨年9月~今年8月の入店客は約109万人と、前年より0・2%増えた。
ただ売り上げは昨年9月~今年2月が11%減、今年3月~8月が20%減と伸び悩む。谷本淳哉・営業企画室マネジャーは「来店客は二十数年間ずっと減っていたので、改装に一定の効果はあった。お客様のニーズに沿う品ぞろえを考えていきたい」と前を見すえる。(おわり、但見易史)