<上・道具>ハイテク練習 成長実感
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練習着にサングラス姿の球児が、白球ならぬゴムボールを追う――。那賀(岩出市)のグラウンドで繰り広げられていたのは、何とも不思議な光景だった。
掛けているのは、動体視力を鍛えるために同校が今年3月に導入した特殊な眼鏡「ビジョナップ」。レンズに内蔵された液晶パネルが、1秒間に最大150回明るくなったり暗くなったりすることで、視野を断続的に遮る。コマ送りのように見えるボールの動きを捉えることで、動きを予測する力も身に付くという。
一塁手・真田克彦(3年)は、チームメートがふわりとトスするゴムボールを捕っては投げ返す練習を繰り返していた。空振りが多い打者だった真田だが、この練習を始めた春以降、長打を連発するようになった。「この道具に出会うまで、思いも寄らなかった練習法。ボールを最後まで目で追えるようになり、守備だけでなく打席での見え方も変わった」と成長を実感する。
一方、市和歌山(和歌山市六十谷)が約10年前から取り入れているのが、バッティング練習をする選手の前や後ろに設置してスイングの速度を測る「打者用スピードガン」だ。バットが打球を捉える度、「時速120キロ」などと表示。さらに、平均速度、過去の最高速度なども計測できる。
この機器で練習を積んだ3番石原翔馬(3年)は、入部当初は時速110キロ程度だったのが、今は130キロ超まで伸びた。「柵越えも増えた」と喜ぶ。
各校が次々導入する、こうしたハイテク練習機器。県内のスポーツ店は「広まったのは、せいぜいこの5~10年。30年以上昔の野球道具というと、バットやボールなど最低限のものしかなかった」とし、「課題や練習の成果が明確に示される分かりやすさが、人気の理由では」と分析する。
使う側の変化を指摘する声もある。
和歌山商でコーチなどを務めた高出博章さん(60)は「今の子どもたちには、『俺たちの頃は……』という経験則ばかりで話しても、あまり伝わらない。目指すプレーを具体的に示し、選手自身にも成長を実感してもらえる点で効果的なのだろう」とする。打者用スピードガンを使う市和歌山の石原は「実力が数値で見えるから励みになるし、目標が立てやすい」と効果を話す。
多種多様な練習機器の進化は、よりきめ細やかさを求められるようになった現代球児への指導法の変化と、軌を一にしている。
◇<昭和は>ビール瓶で手首鍛えた
市和歌山商(現・市和歌山)のエースとして1971年(昭和46年)の県大会で優勝した岩井靖二さん(64)に、昭和の練習道具について振り返ってもらった。
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砂を満タンに詰めたビール瓶で手首を鍛えたり、紀三井寺の石段を片方の足だけで跳んで上ったりと、周囲にあるもので工夫して鍛えたものだ。
様々な数値が測れて、目標が明確に示されるハイテク機器はうらやましくもあるが、やはり“ゴール”を設定するのは自分自身でないといけない。自分に厳しく、がむしゃらに練習したことで、今の球児にないスタミナが付き、精神力も磨かれたと自負している。