<上>失意の一戦 弱点を打開
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4月4日、甲子園球場。大阪桐蔭に2―5とリードを許した九回二死。根来塁(2年)の打球は力なく一塁手のグラブに収まり、トスを受けた投手がベースを踏んだ。優勝の夢は断たれ、昨春から続く同校との連敗は「4」に伸びた。
むせび泣くナインを横目に、現状を冷静に分析していたのは、コーチの中谷仁(39)。「今の彼らは、まだ優勝に値しない」。1997年夏の優勝メンバーでプロ野球経験者の頭の中では、既に夏に向けた戦いが始まっていた。
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選抜大会は、全国に「強豪復活」を印象付けた大会だった。準々決勝、準決勝で最大5点差をひっくり返す大逆転劇を演じ、春夏通じて16年ぶりに決勝進出。しかし、大阪桐蔭には歯が立たなかった。安打6本を放ったが、「まともに外野に飛ばせたのは1~2本」と主将・文元洸成(3年)。中谷だけでなく、選手たちも3点差以上の「差」を感じていた。
選抜以後、ナインは、決勝の反省を生かした練習に取り組み始めた。
大阪桐蔭など好投手ぞろいの強豪校には、ほとんど走者を出せない。少ない好機に、どう畳みかけるか。「無死一塁」や「一死一塁」の場面を想定した打撃練習を何度も繰り返した。「選抜決勝では満塁まで持って行った四回しか得点できなかった。練習で、一塁走者を確実にかえす力が付いてきた」と東妻純平(2年)は手応えを話す。
6月、夏の前に〈宿敵〉と再戦する機会を得た。兵庫県明石市の明石トーカロ球場で行われた、春季近畿地区大会決勝。結果は1―3で敗れ、連敗は「5」になったが、試合を終えたナインの表情は春とは一転して明るかった。
初回、細川凌平(1年)が安打で出塁。無死一塁から、続く神先恵都(3年)が流し打ちして好機を拡大し、文元の中前打で先制。練習してきた形が実を結んだ。「差は縮まった」「夏はやり返せる」。ナインからは、前向きな言葉が相次いだ。
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選抜以後、変わったものがほかにもある。
教室後方の壁に、決勝のスコアボードの写真が貼り出された。悔しさを忘れないため、毎日目にする場所に貼ったものだという。
しかし今は、それを見る目も違ってきた。「後ろの壁に貼ったのは、前だと授業に集中できないでしょ」と文元。失意の一戦を笑い話にする余裕が出てきた。
心身ともに充実して迎えた和歌山大会。初戦から驚異的な打力を披露して高野山を12―0で破ると、準決勝までの4試合すべてでコールド勝利を収めた。
次々と増える得点にも、この4か月間の変化を知るコーチの中谷は驚かなかった。「これが、彼らのいつも通りの力だ」
(敬称略)
◇記者が選ぶ「この得点」
◇2回戦・高野山戦 二回無死満塁
初戦高野山戦の初回は、硬さもあって無得点。待望の初タイムリーは二回、9番のエース平田龍輝(3年)から放たれた。チームの雰囲気はがらりと変わり、11安打で大勝。その後の大量得点の口火を切る一打となった。よりプレッシャーのかかる甲子園の初戦では、先制点が勝負の鍵を握る。聖地でも、いち早く快音を響かせてほしい。
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智弁和歌山ナインが和歌山大会で積み上げた「60点」。その中から、ポイントとなる得点を記者が紹介する。