ゲノム編集 マダイ肉厚に
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近大 持続可能な養殖 天然魚保護に貢献
近畿大水産研究所の養殖は「近大マグロ」が有名だが、マダイの歴史も古い。研究開始は1955年で、約5年後に完全養殖に成功。現在は「近大マダイ」として年間約5万匹を全国へ出荷している。
同研究所の白浜実験場(白浜町)では今、最先端技術で誕生した、身がたっぷりの「肉厚マダイ」の実用化を目指している。家戸敬太郎・場長は「その秘密は、『ミオスタチン』というたんぱく質にあります」と明かす。
ミオスタチンは多くの動物の体内にあり、筋肉量を適度に保つ働きがある。人間の場合、生まれつきこのたんぱく質が作られないまれな病気があり、筋肉が異常に発達してしまう。
「ミオスタチンが作れないマダイができたら身が増え、食べられる部分が多くなるのでは」。マダイの改良で共同研究を続けてきた京都大からそんな提案があり、2013年に新たな共同研究を始めた。
その研究で使ったのが、最先端の遺伝子改変技術「ゲノム編集」だ。従来の手法と比べてはるかに高い精度で狙った遺伝子を改変できる。開発に貢献した研究者は20年にノーベル化学賞を受賞した。
研究では、養殖マダイの受精卵にゲノム編集技術を使い、ミオスタチンを作る働きを持つ遺伝子を切断。そうやって生まれた雄の精子と雌の卵を人工授精させ、生まれつきミオスタチンを作る機能を失った稚魚を量産化することに18年に成功した。
この稚魚が成長すると、普通より一回り大きく、身が約2割増えた。その特徴から肉厚マダイと名付けた。天然の小魚をエサとして与えているが、その量は普通のマダイと変わらない。同じエサの量でより多くの身が取れるため、小魚の“節約”につながる。トラフグも同じ方法で肉厚化に成功。マダイ、トラフグともに実用化を目指し、国への届け出など必要な手続きを進める。
家戸場長は「この手法はさらに多くの魚に応用できる可能性がある」と話す。乱獲で天然の個体数が激減している魚の場合、養殖魚から取れる身が増やせれば、その分、天然魚の捕獲を減らせる効果が期待できる。「研究成果を進め、天然の水産資源の保護に貢献したい」と力を込める。