キャビア量産へ全雌化
完了しました
近大 持続可能な養殖 チョウザメ


新宮市の中心部から車で約20分。曲がりくねった山道の先に、近畿大水産研究所の新宮実験場がある。広大な敷地には30基の水槽があり、大きいもので小学校プールの半分くらい。個々の水槽の中では魚が悠々と泳いでいた。
1974年に三重県内から移転し、開場。それ以来、近くの高田川の水をいけすに引き、アマゴやアユなどの淡水魚を養殖してきた。
世界三大珍味のひとつ「キャビア」として知られる魚卵を生むチョウザメも1995年から育てている。2008年に初めて採卵に成功、販売を開始。今年度は1缶30グラム入りを250缶、出荷した。17年12月からはより効率的に卵を得るため、エサに一工夫を加え、成魚を全て雌にすることを目指す取り組みを学生と一緒に進めている。
稲野俊直・実験場長によると、チョウザメは、
普通のエサで育てた場合は雌雄がほぼ半分ずつになる。だが、女性ホルモン入りのエサで育てた150匹のうち、45匹を無作為に選んで生殖器を調べると全て雌になっていた。
稲野場長は「普通のエサなら雄になるはずだった稚魚が、女性ホルモンの影響で雌になったのだろう」と話す。今後、実際に卵を産む能力を持っているかどうかを調べる。
ただ、国はこの女性ホルモンを食用魚へ使用することを許可しておらず、この方法で育てた雌のキャビアを流通させることはできない。そこで、大豆に含まれる似た天然成分を使った同様の実験をニホンナマズで昨年始めた。この実験がうまくいけばチョウザメでも行い、将来的に実用化を目指す。
チョウザメはかつて日本でも北海道などで生息していたが、環境の悪化で絶滅。世界でもキャビア目当ての乱獲で激減したとの報告が相次ぐ。
稲野場長は「エサで効率よく雌化できれば、養殖でキャビアをたくさん取れるようになり、天然のチョウザメの保護につながる。技術を確立して絶滅防止に貢献したい」と力を込める。