<6>淡さまとわせたムンク
完了しました

この作品には先行する同題の油彩画がある。窓際のベッドで死を悟った少女と、その傍らで女性がうつむく光景だ。その少女の頭部を切り取ったのがこのリトグラフで、油彩と同構図で左右反転した銅版画もある。
基本的に版画は、原画と左右が反転する。そのため銅版画の少女は左を向いている。しかし、本作の少女は油彩と同じ右向きだ。つまりムンクは、一度反転した銅版画からこのリトグラフを作った。版への転換を重ねることで画面は抽象性を増し、さらにリトグラフ独特の淡さをまとった造形へと昇華されている。各版種の間接性が持つ特殊な効果に、ムンクは気づいていた。
家族の死がムンクの作品に深い精神性を与えたという「物語性」に目を向けがちだが、版画家ムンクは、我々が思うよりも造形的な実験家であった。
(県立近代美術館学芸員 青木加苗)