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<15>「創作版画」誕生の瞬間

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 香山小鳥は1892年、長野県に生まれた。本名は香山 藤禄とうろく という。明治から大正期にかけて、詩のような絵で人気を博した竹久夢二と交友があり、夢二を介してのちに版画家として知られるようになる田中恭吉や恩地孝四郎とも親しくなった。

 この夢二あての葉書の上半分には木版画が られている。野原に一本の木が生え、その向こうに赤い太陽が半分浮かんでいる。下には夢二へのメッセージが書かれている。「凡骨先生の愛物だといふ黒猫を膝にねむらせ なが ら午休みの時間にこんなものをこしらへました」

 小鳥はこの時、東京美術学校に入学するも夏の選抜で落第し、木版彫師の伊上凡骨に弟子入りして新しい道を模索し始めたところだった。伝統的な木版の技を学ぶかたわら、昼休みのひとときに気ままに作られたこの木版画は、自画自刻による「創作版画」誕生の瞬間を伝えている。

 夢二の周辺でいちはやく手がけられた創作版画であり、その興味はやがて田中や恩地に伝わることになる。

 しかし小鳥はこのささやかな作品を生み出した直後に病に倒れ、親友たちの版画作品を見ることなく帰らぬ人となった。小鳥の作品は、その遺作集をまとめようとした田中恭吉の遺品に含まれ、いまはふたりの作品が和歌山県立近代美術館の収蔵品として一緒に保管されている。(県立近代美術館学芸課長 井上芳子)

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2223440 0 県立近代美術館50周年 コレクションの名品 2021/07/21 05:00:00 2021/07/21 20:58:21 2021/07/21 20:58:21 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210721-OYTAI50009-T.jpg?type=thumbnail

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