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伏虎金属工業 (和歌山市)


電源を入れると、直方体のポンプにペーストが吸い込まれ、反対側の口から勢いよく出てくる。ポンプ内部ではステンレス製の2本のスクリュー(ねじ)が回転して、ペーストをストローのように吸い上げているという。スパイシーな香りがするペーストの正体は、カレールーの原料だ。
「
前田寛二社長(78)は「お客さんの要望に応えたいという思いから、ここまできました」とにこやかに話す。
前身は、父が起こした鋳材などを扱う商店。約60年前、父のもとで働いていた前田社長は、取引先から鋳物の加工を頼まれた。それまでものづくりに関心はなかったが、「お客さんが言うなら」と、社内に新たな機器を導入し、望むとおりのものを作った。以来、次々に加工の注文が舞い込むようになり、次第に金属部品を使ったポンプも開発するようになった。
「ポンプを通した前と後で品質が変わってしまい困っている」。取引先の食品メーカー担当者から相談を受けたのは20年ほど前のことだった。チョコレートのような食品や化粧品は厳しい温度管理が必要だが、工程から工程へと移す際、ポンプ内部で部品同士がこすれ合って摩擦熱が生まれ、品質が損なわれるというのだ。それを聞いて、前田社長の心に火がついた。
前田社長は、国内の他メーカーのポンプと差別化するため、海外のカタログを取り寄せて研究を重ね、2本のスクリューを内部で回転させることにした。スクリュー同士を接触させてはいけないが、吸引力を保つためには、限界まで近づけなければならない。当時57歳だったが最先端のコンピューター利用設計(CAD)ソフトを一から学び、試作を重ねた。3年の月日をかけて完成した「二軸スクリューポンプ」は、二つのスクリューの間がわずか0・1~0・5ミリ。紙1枚ほどの隙間によって摩擦熱はなくなり、性能も申し分ないと食品メーカー担当者は大喜びし、瞬く間に会社の看板商品になった。
顧客の声を聞きながら技術を応用し、その後も液体と固体を混ぜながら移動させる「ブレンディングポンプ」、みそなどに含まれた細かい気泡を抜く「デフォーミングポンプ」などの新たなポンプを生み出し続けている。前田社長のもとには「生産効率がぐんと向上した」「こんなポンプを待っていた」と喜びの声が届いているという。
今では九つの特許をもち、中国や韓国にも顧客を広げるオンリーワン企業となったが、今も昔も、前田社長が大切にするのは目の前の相手を大切にする“おもてなしの心”だ。「お客さんの話を聞くと、また新しいアイデアがわき出てくる。生きている限り、新しい製品を作り続けていきたい」(相間美菜子)
<企業MEMO>
1962年に和歌山市で創業。社名は和歌山城がある「