駆除した命おいしく

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ワナにかかった鹿と長谷川さん(7月25日、早川町で)
ワナにかかった鹿と長谷川さん(7月25日、早川町で)
記者は鹿の解体を2回手伝った
記者は鹿の解体を2回手伝った

 早川町のそばを走るJR身延線では2日に1頭、鹿が電車にぶつかる。町内を車で走れば、鹿、猿、テンの姿が目に入る。町民は言う。「動物園に行く必要ないだろ」。川の次は山だ。食害を防ぐためのワナを使った鹿の捕獲に同行した。

 「ワナは獣との知恵比べ。ウト(獣道)には国道、県道、町道があってな、毎日通るような国道にかければ一発だ」

 野太い声の主は長谷川空五たかゆきさん(76)。森林組合に長く勤め、狩猟歴45年。猟の手ほどきを受ける若手から「師匠」と敬愛されている。

 7月23日、軽トラに同乗して長谷川さん宅の裏山に向かう。1分ほどで止まる。「ここがウト」。何か所か見て回り、「斜面がきつくて、うまくかかるか分からんが」と言いながら穴を掘り始める。ワナは板を鹿が踏むとバネが作動し、ワイヤで足を締める仕掛けだ。木の根の近くにセットし、最後に落ち葉をかける。この間30分ほど。

 2日後の朝。暴れた末に横倒しになった鹿がワナにかかっていた。2歳くらいのメスで体重約40キロ。「死んでるか。ちょっとぶったたいてみろ」と長谷川さん。自慢ではないが、記者は実家(神奈川)のペット犬、ビーグルを散歩させたこともない。恐る恐る触れると、ぴくりと動いた。

 近くの大窪毅さん(43)が応援に駆け付け、手際よく作業する。まずい。このままでは、鹿の解体までちゃっちゃっと進んでしまいそうだ。記事の取れ高が……。思い切ってお願いする。「手伝わせてもらえませんか」

 「やってみろ」と長谷川さんが無造作に言う。受け取ったナイフを鹿の首筋に当てる。大窪さんが鹿の目の辺りを踏みつけて暴れないように押さえる。鹿は「メェー」と鳴き声を上げ、ばたつかせた足は徐々に収まっていく――。

 「仕事とは言え、っちゃったな」。長谷川さん宅の解体場へ運び、記者の隣人の上原佑貴さん(40)もやって来る。後ろ足をつり下げて解体に入る。「殺っちゃった感」を引きずったまま少し手伝う。ほのかに温かさが残る皮を剥ぐ。応援の2人は慣れた手つきで下腹部から縦に裂き、内臓を取り出す。

 ショックだったはずが、だんだん肉らしく見えてくるから不思議だ。「どう食べたらおいしいかな」なんて考えている。美味な部位の一つ、ロースは背骨に沿って切り取っていく。あばらを切断し、足を外してほぼ終了。

 森林が96%を占める町では、かつて猟が生活の一部だった。高齢化が進み、今や猟友会員は30人余りしかいない。農作物の食害は絶えない。

 「牛だって解体して食べる。都会では見えないだけ。おいしく食べなきゃいけないさ」。大窪さんの励ましの言葉を思い出しながら、その夜は、あばらで作ったスープをすすった。(松本健太朗)

無断転載禁止
718830 0 ゆる移住@早川 2019/08/01 05:00:00 2019/08/01 23:02:36 2019/08/01 23:02:36 ワナにかかった鹿と長谷川さん(7月25日、早川町で)=松本健太朗撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190731-OYTAI50010-T.jpg?type=thumbnail

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