雨畑硯己と戦い彫る

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雨畑硯の唯一の職人、玉泉さん(8月1日、早川町雨畑で)
雨畑硯の唯一の職人、玉泉さん(8月1日、早川町雨畑で)
(上)硯を彫る記者(7月28日)(下)記者が作った硯
(上)硯を彫る記者(7月28日)(下)記者が作った硯
記者が作った硯
記者が作った硯

 早川町の川と山をゆるく体感した後は、伝統工芸だ。

 7月28日、雨畑地区の特産品、雨畑すずりの工房や展示施設がある「硯匠庵けんしょうあん」を訪ねた。700年の歴史があるとも言われる硯の制作を体験した。

 手ほどきしてくれるのは館長の天野元さん(71)。大きい石を加工するには1、2日かかると言われ、迷わず小ぶりな石を選ぶ。縦9センチ、横6センチ。

 座布団が敷かれた長いすに座って木の柄のノミを握り、石に向き合う。つかの間、職人の気分になる。

 石は薄くはがれる頁岩けつがん楕円だえん形の石に、墨をする「丘」を削り、墨をためる「海」を掘り下げる工程だ。

 「紙を剥がすように彫るんだよ」とアドバイスをもらう。参ります。ズ、ズ、ズ。あれっ。なかなかうまく削れない。

 「こうだよ」。シュッ、シュッ、シュッ。

 「こうっすか」。ズ、ズ、ズ。

 まず、削る音が違う。同じ作業を30分も続けると集中力が切れてくる。字が汚いのを見かねた母に書道教室へ通わされた子どもの頃の記憶がよみがえる。半年も続かなかったなあ。いかん、眠気も襲ってきた。マンツーマンで指導を受けてるのに。

 いろんなものと戦いながら、海の部分まで何とか硯らしい形になってきた。「うまいじゃない」と褒められた。うれしい。

 最後は紙ヤスリと砥石といしで磨いて仕上げる。目が粗いものから細かいものまで計4種類使う。天野さんに手伝ってもらいながら完成まで約3時間。

 雨畑硯は1297年、日蓮上人の弟子が雨畑川で黒い石を見つけ、それを住民に彫らせたところ、上質な硯が出来たことから始まったと伝わる。石の粒子が細かく均質で墨のすり心地がよく、昭和天皇に献上されるなどしてきた。明治時代には職人らが100人以上いたという。

 需要が減って職人はどんどん減り、今や伝統を受け継ぐ職人は雨畑出身で硯匠庵に勤める望月玉泉さん(62)(富士川町在住)1人となった。制作体験から4日後、再び硯匠庵を訪問して玉泉さんに硯を作るコツを聞くと、「腕の力ではなく、体全体を使って彫るんだ」と言われた。コーチからダメだしを受けた投手のような気分になった。

 「硯で稼ぐのは難しいが、後継者が見つかれば……」と嘆息する玉泉さん。記者には難しいと感じつつ、存続を願った。

(松本健太朗)

 施設の住所は雨畑709の1。開館は午前9時~午後5時。休館日は祝日を除く火曜、年末年始。1人4000円から制作体験を受け付けている。短くて1時間から。事前の相談が望ましい。見学は18歳以上200円、中・高・大学生100円、小学生以下無料。問い合わせは0556・45・2210。

無断転載禁止
722566 0 ゆる移住@早川 2019/08/03 05:00:00 2019/08/02 21:09:03 2019/08/02 21:09:03 町内唯一の職人、玉泉さん(8月1日、早川町雨畑で)=松本健太朗撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190802-OYTAI50012-T.jpg?type=thumbnail

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