機運しぼませない
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「ボン・クラージュ(頑張れ)。日本もフランスもコロナで大変だけど、練習を頑張ってください」
20日午後、甲府市立甲府商業高校の体育館で卓球部員9人がカメラに向かって声をそろえた。市内で東京五輪の事前合宿をする予定だった卓球とレスリングの仏代表選手団に送るメッセージを収録していた。
五輪延期が決まった3月、ホストタウンとして準備を進めてきた市には重い空気が漂った。各イベントは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期や中止となり、市国際交流課の担当者は「選手たちを来年迎えられるかも見通せず、何をすればいいのか分からなかった」と途方に暮れた。
県内では各国選手団が事前合宿を予定し、14市町村がホストタウンに登録されている。相手国との交流を深めようとしてきた各自治体はコロナ禍の中、インターネットを活用している。
市には4月、仏代表からビデオメッセージ3本が届いた。家でできる簡単な運動が紹介され、市ホームページにアップすると、約500回再生された。
市はお礼としてメッセージを送ろうと企画。小中高校生らがフランス語で応援する動画は23日にも届けられる。参加した同校卓球部の石沢麻衣主将(17)は「1年の延期は残念。でも、応援し続けて仏代表のプレーを見たい」と話す。
仏フェンシング代表が事前合宿を予定していた西桂町でも今月10日、町内の中学生がフランス語で「富士山が皆さんを待っています」「コロナに負けないで」と応援メッセージを送った。SNS上で動画はフランス人の間に拡散され、3000件近い反響があるという。
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聖火ランナーに選ばれた県民も1年後に向けて気持ちを高めている。
県内最高齢で一般ランナーに選ばれた中央市の松本弘さん(83)は、マスターズ水泳の個人種目で世界記録を50回更新してきた。21日午後は、南アルプス市のプールで軽いストレッチの後、ゆったりとしたクロールのフォームでコースを往復した。時折、右肩の動きを確認していた。
プールに通って1~2キロを泳ぐことを日課にしていたが、感染拡大で自宅から出られず、プールは休業していた。本来の予定ではランナーとして走るはずだった先月27日、外出中に転倒して地面に手をつき、右肩の筋肉を断裂。腕が上がらず、医師から「もう泳げなくなるかもしれませんよ」と告げられた。
それでも泳ぐことを諦めなかったのは、聖火リレーがあったから。「聖火ランナーは選手と国民の中間。つなぎ役なんだ。こんな老人でも走っている姿を見せれば、皆を元気づけられる」と、高齢者アスリートとして語る。懸命にリハビリを続け、今月17日にプールでの練習を再開した。
「年齢を考えると、来年まで生きていられるかと思うこともある。でも、それ以上に頑張ろうという気持ちが強い。それだけ東京五輪の存在は大きいんだよ」
(この連載は、清水誠勝、伊丹理雄、鈴木経史が担当しました)