予防に役立たない「感染者非難」…公衆衛生と道徳感情のシーソーゲームは続く

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 ◆…医療社会学者 美馬達哉氏…◆

 世界保健機関(WHO)が、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を「パンデミック」と宣言して7か月がたつ。未知のウイルスへの恐怖に激しく揺さぶられた社会に「新しい生活様式」が定着しつつある。日本を含め、多くの人が不要不急の外出を避け、「3密」が懸念される場所に立ち寄らなくなった。まだコロナ禍の収束は見通せないが、私たちは自由に振る舞うよりも秩序優先という規範を、これからも受け入れていくことができるのだろうか。医療社会学者で医師でもある、美馬達哉・立命館大学教授に、コロナ禍による社会の変容をどう読み解くかを聞いた。(編集委員 阿部文彦)

自発的に社会的距離、感染ある程度抑制。集団的な力実感

みま・たつや 大阪府生まれ。京大医学研究科博士課程修了。同大准教授を経て、立命館大学教授。専門は医療社会学、脳科学。「生を治める術としての近代医療 フーコー『監獄の誕生』を読み直す」「感染症社会 アフターコロナの生政治」など著書多数。
みま・たつや 大阪府生まれ。京大医学研究科博士課程修了。同大准教授を経て、立命館大学教授。専門は医療社会学、脳科学。「生を治める術としての近代医療 フーコー『監獄の誕生』を読み直す」「感染症社会 アフターコロナの生政治」など著書多数。

 感染状況をみると、日本は1日の感染者が数百人台とほぼ横ばいですが、海外では一度ピークを過ぎた欧州で増加傾向にあります。感染拡大を抑えているのは外出を控えるといった個人の行動、店舗の営業制限といった対策の成果ですから、少し緩んでしまうと、ウイルスが力を取り戻す。そういうシーソーゲームが日本や世界各国で続く可能性が高いと思います。

 昨年末に中国・武漢で最初に流行した新型コロナウイルスはすぐに、欧州、米国、日本などに広がりました。中世のペストや、20世紀初頭のスペイン・インフルエンザとの違いは、飛行機に乗った感染者によって、急速に全世界に拡散したことです。現代を象徴する感染経路と言えるでしょう。

 一方、感染によって生じた景色は、個人の移動の自由と人権の不可侵を基本理念とする現代の社会とはかけ離れていました。都市人口の大多数が、行動の制限を受け入れ、おおむね平穏に家に閉じこもったのですから。国によっては罰金などを伴う法的な強制もありましたが、驚くべき事態です。特に日本では規制が緩いにもかかわらず、多くの人が社会的距離を自発的に確保しました。

 なぜ人々は、嫌々ながらも自由の制限を自ら選択し、社会の秩序を継続することができたのでしょうか。

 フランスの思想家、ミシェル・フーコー(1926~84年)は、主著の「監獄の誕生」でペストに襲われた中世欧州の都市の風景を描き、「近代」の原像として提示しました。隔離・検疫のため、街区を細分化した上で外出を禁止し、世話人が違反者の有無を監視します。監視により、人々は規律を調教され、管理されます。ある意味で、秩序を行き渡らせる「理想的」なモデルと言えます。

 フーコーはこの管理・監視という側面に着目し、感染症による都市封鎖が、近代社会の原型となったと論じました。監視こそが、近代社会で人々を服従させ、秩序を維持する「権力」の中心に位置するとみなしたからです。

 近代の監視を象徴する仕組みとして、フーコーが挙げるのが、19世紀に運用が始まったパノプティコンという監獄の一望監視装置です。中心にある監視塔の周囲に多数の独房を配置したものです。

 教室で先生が後ろに立って生徒に自習させているイメージです。生徒は先生がだれを見ているのかわかりませんが、自分が見られている可能性があるのできちんと机に向かいます。囚人も生徒も近代社会を生きる我々も、「常に監視されている」という意識を持ち、自らを監視するようになります。コロナ禍という非常時も、隔離・検疫、それに通常時よりも強い自らの監視が、都市を管理する手段となり、人々は外出の自粛などの新しい行動様式を守りました。

 ただ、行きすぎた監視も出現しました。閉店しない飲食店をSNSなどで非難する「自粛警察」です。不自由な生活への不満が、「通常」を謳歌おうかするように見えた人々へのねたみとして、まんえんしていたことの表れです。

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1557682 0 医療・健康 2020/10/18 18:18:00 2020/10/18 18:18:00 コロナ禍があぶり出した現代社会と今後について語る美馬達哉教授(24日午後、京都市北区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201011-OYT1I50027-T.jpg?type=thumbnail

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