[明日を築く]<2>開発力…国産ワクチン「次」へ備え
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多くの人の命を左右する医療。その研究開発の重要性が改めて認識された。コロナ禍やがんに立ち向かう産・官・学の最前線で、日本の「開発力」の現状を探る。

世界がしのぎを削る新型コロナウイルスのワクチン開発。日本もその一角に加わっている。
<COVID―19に対する予防ワクチンの開発を決定しました>。昨年4月、塩野義製薬(大阪市)が発表した。
よし――。同社のワクチン研究の責任者、大本真也(42)の研究者魂に火がついた。
塩野義は感染症の創薬を主軸とする数少ない日本企業だ。ただ、治療薬の開発経験は豊富でも、ワクチン事業を本格化させたのは2年半前だった。大本は社の内外で「まだ新型コロナをやらないのか」と度々聞かれ、もどかしさを感じていた。ウイルス研究に没頭してきた自分が、この危機の克服に貢献しないでどうする――。
大本らのチームは国立感染症研究所とともに、複数のワクチン候補の有効性と安全性を、試験管や動物実験で確認して絞り込んだ。通勤電車や自宅の風呂場でも、頭の中はワクチンのことでいっぱいだ。
「世界のどこよりも、質の高い製品を完成させたい」
通常10年以上かかる新薬開発を大幅に短縮する。早期の実用化を実現するため、商用生産の体制構築も4月に同時着手、12月に最初の臨床試験を開始した。異例のスピードである。しかし米ファイザー社など海外企業の開発速度はさらにすさまじい。欧米などではすでに接種が始まった。
それでも「日の丸ワクチン」の開発は絶対必要だ。塩野義でワクチン開発を統括する有安まりは“次”を見据える。

「新たなパンデミックは起こり得る。海外に依存するだけではダメです」
世界で毎年1000万人近くが亡くなるがん。昨年、世界初の治療法が日本で承認され、12月から保険適用になった。
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開発したのは、米国立衛生研究所(NIH)の主任研究員、小林久隆(59)。楽天の三木谷浩史(55)が会長を務める「楽天メディカル」が薬とレーザー装置を製品化し、申請からわずか半年で承認された。
医療の開発力は裾野の広さとスピードが問われる。ウイルスに限らず、様々な相手が次々と人類に襲いかかってくるからだ。(文中敬称略)