読売新聞オンライン

メニュー

日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞

[読者会員限定]
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 認知症の人に対するケアの充実が社会の重要課題となる中で、認知症の医療や介護に功績のあった個人や団体に贈られる「日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞」(日本認知症ケア学会主催、読売新聞社特別後援)の受賞者が決まった。長年の取り組みをたたえる功労賞に1人、現場での活動を評価する実践ケア賞に3団体が選ばれた。賞は2004年に創設され、今回で17回目となる。

功労賞

「認知症ケアの理念を伝え続けたい」と語る和光病院の今井さん(埼玉県和光市で)
「認知症ケアの理念を伝え続けたい」と語る和光病院の今井さん(埼玉県和光市で)

当事者・周囲の幸福感 尊重…今井 幸充(ゆきみち) さん 70(医療法人翠会和光病院院長)

 精神科医になって約40年。認知症の人とその家族に寄り添ったケアや、認知症に関する正しい知識の普及に力を注いできた。

 「認知症は今や、珍しいことではなく、認知症のある人にも、住み慣れた地域で暮らしていく権利がある」という信念を抱く。その実現のために本人と家族の負担を減らし、社会全体が理解を深めていくことに尽力してきた。

 1978年、聖マリアンナ医科大学(川崎市)に入局した。同大学病院はその後、認知症のある人とその家族を支援しようと、大学病院として全国初のデイケアを始めた。家族同士が互いの在宅ケアの難しさや乗り切る知恵を共有できる「家族会」も設けられた。自分自身も認知症の当事者と家族の悩みに正面から向き合い、多くの経験を積んだ。「家族、医療現場、地域などと連携すれば、認知症と共生できるという感触を得た」と当時を振り返る。

 介護保険制度が導入された2000年、認知症ケアの情報交換や、ケアに携わる介護職員らの育成などを目的に、日本認知症ケア学会を発足させた。19年まで自ら理事を務め、学会認定の資格「認知症ケア専門士」の創設に参画した。

 多角的に認知症に取り組むため、一時的に医療現場を離れ、社会福祉学の観点から、認知症支援を研究したこともあった。医療は結果を重視するのに対し、福祉はその時々に必要な支援を提供するプロセスが大切だと痛感した。「医師も結果だけでなく、その時にできることに力を尽くし、自分の学びや気付きを周囲と分かち合うことが務めだ」と考えるようになった。

 そして「多くの人に認知症を身近に感じてほしい」という思いから、テレビドラマの医療監修や、インターネット上の認知症コラム執筆など、活動範囲を広げていった。コラム執筆時には「自分の事」として受け止められるように工夫して情報発信した。

 12年には、和光病院(埼玉県和光市)の院長に就任した。就任直後に、これまでの研究や経験を踏まえ「ケアも治療の一環」とする病院の理念を掲げた。病院職員たちには「自分が当事者や家族だったらどうしてほしいかを考えることが大切」と訴えた。もし当事者が「食べたくない」とかたくなに食事を拒むのならば、食べてもらう方法を考えるのではなく、相手の気持ちに寄り添い、無理強いをしないことも、選択肢として持つべきだと考える。

 認知症の当事者や家族を尊重するケアは、認知症の症状緩和や、幸福感につながると確信している。幸福感の向上は、精神科医が目指すべき方向の一つだ。そのためにも「認知症の要因が精神的なものなのか、脳機能に由来するものなのか、丁寧に観察していくのが医療の大事な役割」と強調する。

 認知症の当事者と、見守る人たち全員が穏やかに、幸せに暮らせる医療を理想に抱く。「認知症ケアの理念をさらに発展させ、後世に残していきたい」と意欲を燃やしている。

実践ケア賞 (3団体)

地域の観光スポットなどを巡る「かまくら散歩」の様子(神奈川県鎌倉市で、提供写真)
地域の観光スポットなどを巡る「かまくら散歩」の様子(神奈川県鎌倉市で、提供写真)

◆市民も参加「散歩」を継続…一般社団法人 かまくら認知症ネットワーク

 認知症の人への支援を考える介護・福祉の専門職による勉強会がスタートだった。2011年に一般社団法人化し、五つの部会を設置して若年性認知症の相談などにも取り組んでいる。「認知症の人が暮らしやすい場所は誰にとっても安全なまちになる」という考えに共感した市民の積極的な参加も目立つ。

 神奈川県鎌倉市内を当事者、家族、福祉関係者、市民が交流しながら巡る「かまくら散歩」は10年以上続いており、地域の中高生が参加する活動に成長した。自宅とデイサービス施設の往復以外に外出の場が少なかった認知症の人が、地域社会に出る機会を増やすことが狙いだ。

 新型コロナウイルスの影響で活動を自粛する動きが広がる中、かまくら散歩は感染防止に配慮しつつ、回数を増やして継続している。散歩前には当事者同士の交流の場である「本人カフェ」の時間も設けている。

 認知症の情報提供や相談の場が減っている状況に対応し、家族のためのオンラインの勉強会も行う。電話相談も受け付けている。稲田秀樹代表理事(60)は「『ここなら仲間に会える』という場を当事者や家族のために増やしていきたい」と話している。

認知症の当事者が参加し、生活課題などを話し合った本人ミーティング(名古屋市北区で、提供写真)
認知症の当事者が参加し、生活課題などを話し合った本人ミーティング(名古屋市北区で、提供写真)

◆聞き取り基に指針作り…名古屋市北区認知症フレンドリーコミュニティ事業プロジェクトチーム

 名古屋市北区は市内でも一人暮らしの高齢者が多い地域で、認知症になっても安心して暮らせる地域作りが課題だった。そこで2020年5月から、区や地域包括支援センターなどが中心となり、認知症当事者の生活課題を把握する調査を始めた。

 図書館やスーパーなど14か所で聞き取り調査をしたほか、60~70歳代の認知症の当事者4人の本人ミーティングも重ねた。こうして生活しやすい地域作りを進めるための指針を「北区認知症フレンドリーコミュニティガイド」にまとめた。

 指針作成にあたり、地域の経営者やデザインの専門家らとも懇談会で議論した。「特別扱いされるのではなく普通に暮らしたい」などの声に応え、「これまでの暮らしを大切にし、変化を受け入れながら柔軟に対応する」などと明記した。

 地域の経営者が、懇談会への参加をきっかけに、認知症の人を含む誰もがはきやすい靴下の商品開発を始めるなど、生活の困り事を解決する具体策にも結びついている。

 区福祉課の 岡嶌おかじま 真木子さんは「誰もが暮らしやすいまちづくりのために、認知症の人と地元企業などが対話する場を今後も作っていきたい」と話している。

施設を訪問し、利用者と談笑する介護オンブズマン(右側の2人、提供写真)
施設を訪問し、利用者と談笑する介護オンブズマン(右側の2人、提供写真)

◆介護施設巡り橋渡し役…NPO法人 介護保険市民オンブズマン機構大阪

 介護保険制度が始まった2000年に発足。認知症の人とのコミュニケーションなどについて学んだ「介護オンブズマン」が介護施設を訪問し、より良い施設運営や利用者の生活の質向上を支えてきた。

 「オンブズマン」はスウェーデン語で代理人や代弁者を意味する。代表理事の三木秀夫さん(66)は「活動のモットーは『橋渡し役』です」と話す。

 介護オンブズマンは2人1組で施設を定期的に訪ね、利用者の話を丁寧に聞き取る。言葉で伝えるのが難しい利用者には、表情にも注意を払う。その中で気付いたことを施設側に伝え、生活環境やサービスの改善につなげている。

 大阪府内の特別養護老人ホームを訪問した際には、福岡県出身の利用者が好きな地元の料理を聞き取り、施設側に伝えた。実際に提供したところ、利用者は涙を流して喜んだという。

 介護オンブズマンは現在約50人。家族の介護を経験した人が多く、看護師やケアマネジャーの経験者もいる。10年以上活動を続けている人もいるという。

 三木さんは「認知症の人の気持ちを代弁して施設側に伝えることで、より良い老後の生活を支援していきたい」と話している。

「専門士」制度 確立に貢献…講評 繁田雅弘・選考委員長

 受賞者のみなさまには心からの敬意とお祝いをお伝えしたいと思います。

 「功労賞」を受賞された今井幸充先生は、20年以上にわたり、認知症医療とケアの中心的な役割を果たされてきました。優しく穏やかな 眼差まなざ しをいつも、当事者とご家族だけでなく、現場のスタッフにも向けてくださっていて、その眼差しの奥にある強い意志と情熱は、現在の認知症ケアの在り方に大きく結実をしました。また今井先生の存在なくして「認知症ケア専門士」の制度は確立できなかったことでしょう。

 「実践ケア賞」の選考過程では、認知症ケアに取り組む活動の広がりと深まりを強く感じました。今回受賞された3団体は、成り立ちも活動内容も異なりますが、共通して言えることは「ケアをする側とされる側」という関係にとらわれずに事業に取り組み、成果を上げたということだと思います。

 ▽選考委員長=繁田雅弘(日本認知症ケア学会理事長、東京慈恵会医科大教授)

 ▽選考委員=池田恵利子(いけだ権利擁護支援ネット代表)、長田久雄(桜美林大大学院教授)、加藤伸司(東北福祉大教授)、中村祐(香川大教授)、堀内ふき(佐久大学長)、山崎貴史(読売新聞東京本社編集局次長)(敬称略)

 【主催】一般社団法人日本認知症ケア学会  

 【特別後援】読売新聞社

無断転載・複製を禁じます
2194642 1 医療・健康 2021/07/10 05:00:00 2021/07/10 05:00:00 「認知症ケアの理念を伝え続けたい」と語る和光病院の今井さん(埼玉県和光市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210709-OYT8I50067-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)