NYハイラインの「記憶」とアート

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 新しい世の中の動きを知る上では、新聞やテレビなどのメディアも大切ですが、一方で、SNSや、知り合いからの口コミなども重要な役割を果たす時代になってきています。

高架の廃線跡が公園に

 ニューヨークに「ハイライン」というものがあるのを知ったのは、友人の (うわさ) 話からでした。

 「やっぱり、ニューヨークと言えばハイラインだよね」

 「ん? それは、何ですか?」

 「高架の鉄道の跡が、公園になっているんですよ。そこに、アート作品なども設置されているのですよ」

 「むむ! なんだか、面白そうですね!」

 私の脳裏に、廃線になった鉄道の線路から、植物がにょきにょきと生えてきている風景が浮かびました。

 地上の廃線から草が生えてくるだけでもわくわくするのに、ましてや、ニューヨークの街の中を走る高架の廃線から草や樹木が生え、それを活用した公園が人気を集めているというのは、とてつもなく魅力的で、興味を () かれることのように感じました。

 先日、仕事でニューヨークに行った時、空き時間にさっそく「ハイライン」を目指しました。

 約2.3キロメートルにわたって、市内をほぼ南北に走るハイライン。その一番北の入り口に向かって、セントラルパークの南側から歩いて行きます。

タイムズスクエアも進化?

 途中、有名な「タイムズスクエア」を通りました。以前にも来たことがあり、また、テレビや映画などでも何度も見かける光景なので言わば「お 馴染(なじ) み」なのですが、今回、驚いたことがありました。

 広場に面する電光掲示板の数が多く、画面も大きくて、さらに高精細なので、まさに「動く絵」に取り囲まれているような気がするのです。

 しかも、一つひとつのディスプレーが「明るい」ので、昼間でもくっきり見えます。極端なことを言えば、街の風景の細やかさと区別がつかないくらいの「別世界」への「扉」に囲まれているような気がしました。

 日本では、東京、渋谷駅前の交差点が国際的に人気の観光スポットとして有名です。青信号になると、スクランブル交差点をたくさんの人たちが行き来する様子を、外国からいらしたお客さんが興味深そうに見ています。

 一方、タイムズスクエアは、たくさんの高精細のディスプレーに囲まれた広場として、独自の「進化」を遂げつつあるように見えました。

 やはり、このようなことは、都市を実際に歩いてみないとなかなか実感としてつかめません。

鉄道の「記憶」を活かす

 さて、タイムズスクエアを抜けて、いよいよハイラインへ。

 もともと、ニューヨーク市内の物資輸送に使われていた鉄道が、時代の流れとともに使われなくなって廃線となっていたのだそうです。

 その跡に草や木が生えている風情に注目した人たちが、保存運動をして、ハイラインが出来たのです。

 一時は撤去の動きもあったようですが、 紆余(うよ) 曲折の末、かつての鉄道高架をそのまま () かした公園づくりが実現しました。

 それが、結果として大成功。今では、多くの人たちが訪れる観光スポットになっています。また、ハイラインという新たな「資源」を用いて、その周辺にユニークな不動産開発の試みもあり、街の再活性化の一つのモデルケースとしても注目されています。

 ハイラインを実際に歩いてみて感じたことは、今や、「効率」から「人間中心」へと都市づくりが移って来ているのだなということです。

 歩くのは、時間がかかります。重い荷物が運べるわけではありません。それでも、時にはベンチに腰掛けたり、あるいは周囲の建物を眺めたりしながら思い思いの時間を過ごす人たちの表情は幸せそうでした。

 かつての鉄道としての「記憶」を活かした公園づくりはさすがです。ところどころ、わざと線路を残したり、あるいはカーブを活かした緑地づくりを試みたり、公園を歩く人たちが決して飽きることのない、それでいてゆったりと落ちついた空間が生み出されているのは素晴らしいと思いました。

語るアートと都市

 注目すべきは、所々にアート作品が設置されていることです。

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 ニューヨークと言えば、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館(MOMA)をはじめとする美術館や、数々のアートギャラリーがあり、現代美術の世界的な中心の一つです。そんなニューヨークの「地の利」を活かして、公園の景観に溶け込んだ、それでいて批評性のある作品が設置されていました。

 ハイラインの南端に近い場所にあった「We are 11 million」(私たちは1100万人)という文字が書かれた作品。実は、「1100万人」というのは、正式な入国手続きなしで米国内に滞在している人々、いわゆる「不法移民」の数なのだそうです。

 英語の表記の裏側には、多くの不法移民の方々の母語、スペイン語で同じ意味の言葉が書かれていました。

 ハイラインを散歩した後、スタテン島に向かうフェリーから、自由の女神を見ました。

 揺れ動く米国。

 変わりゆく米国。

 しかし、米国が大切にしている「何か」が依然としてあって、その「何か」が、ハイラインという注目の都市公園の中に、しっかりと受け継がれているように感じられました。

 やっぱり、都市を歩くのは、いいものですね。

 ちなみに、私自身は今回は走りませんでしたが、ハイラインを行き交うランナーも、たくさんいらっしゃいました。

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茂木 健一郎  (もぎ けんいちろう) 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

265367 1 世界を脳から読み解く 2018/05/28 03:00:00 2019/01/30 18:32:11 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180523/20180523-118-OYTPI50083-L.jpg?type=thumbnail

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