明治神宮という「奇跡」に触れる

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 大都会の中にあって、深い森に囲まれた明治神宮は、「奇跡」のような存在だといつも感じます。

 明治天皇が亡くなられた後に、お (まつ) りしたのが明治神宮。もとは牧草地のような環境だったと言いますが、その場所に各地から365種類、12万本の木が集められ、植えられたのです。

 植物学者たちが中心となってその後の遷移がどうなるかを含め検討、計画されたということですが、その先見の明に深い敬意を抱きます。

 造営から100年近くを経た今、境内には豊かな森が育ち、さまざまな生きものたちが見られるようになりました。オオタカが営巣するくらいの深い森が、もともとは人工であったということは興味深いことです。

文化背景の差を超え

 私は、しばしば、明治神宮を訪れます。代々木駅の方からアプローチすることが多く、参道と鳥居が見えると、「ああ、また来ることができた」と感激します。

 たいていの場合、鳥居のあたりで参道の緑を眺めたり、写真を撮ったりしている方々を見かけます。近年における大きな変化は、外国からのお客さんが劇的に増えたことでしょう。今では、外国の方が多くいらっしゃる時間帯の方が長いくらいに感じます。

 外国の方向けの旅行情報サイトでも、明治神宮は高評価。皆さん、東京の雑踏と神宮の森の静寂の間の強いコントラストに、感銘を受けているようです。

 鳥居をくぐり抜けた瞬間、気持ちが切り替わります。普段の雑念を取り払って、静かに、気持ちを落ち着けて歩んでいくと、心がゆったりと癒やされていくようです。

 森とともに、外国からの訪問者が多くコメントしているのは、本殿などの建物の美しさ。厳かな神社建築には、文化背景の差を超えて人の心に訴えるものがあるようです。

「目で見る瞑想」

 最近の研究によれば、ある種の建築物は、人間の脳に、 瞑想(めいそう) しているのと同じような活動の変化をもたらしていることが示唆されています。いわば、美しい建築は、「目で見る瞑想」なのです。

 元々、教会やお寺、神社は、信仰の場として、人の心に感化をもたらすものとして設計され、つくられてきました。禅寺の建築などは、そこで修行する僧侶たちが瞑想する場にふさわしいものとしてつくられています。

 神社もまた、信仰の場として、それにふさわしい美しさ、厳かさがあります。明治神宮の社を訪れた外国の方々は、 古か(いにしえ) ら伝えられてきた精神性に触れて、何かを持ち帰られているのでしょう。

 参道を歩いていくと、やがて、レストランやお土産屋さんなどがある「明治神宮文化館」のあるエリアに着きます。

 私は、取材や打ち合わせなどの場所に、ここのレストランを指定させていただくことが時々あります。編集者の方々には、「こんな場所にこんな 素敵(すてき) なお店があるとは知らなかった」「久しぶりに明治神宮に来て、森の美しさに驚いた」などと感想をいただきます。

 私としては、自分自身も再び明治神宮の深い森に包まれて気持ちをリフレッシュしたいという思いがあり、また、多くの方に明治神宮の素晴らしさに触れてほしいという気持ちもあって、いろいろな意味で、明治神宮文化館を大切な出会いの場所にさせていただいているのです。

神宮の森に並ぶ菰樽

 さて、この、明治神宮文化館の前に、外国からのお客さんに圧倒的な人気を誇るスポットがあります。

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 それは、各地の蔵元から奉納された日本酒の (たる) 。各蔵元で工夫をこらした意匠が並んだ風景は、壮観です。

 正確に言えば、これらの樽は、運搬の際に破損を避けるために「 (こも) 」を巻いた、「菰樽」で、長年にわたって明治神宮とご縁があった蔵元のものだということです。「菰」は、イネ科の多年草のマコモを編んだものですが、今では稲が使われることが多いと聞きます。

 結婚式や祝賀パーティーなどの席で、「鏡割り」の際に使われることも多い菰樽。そのような日本の伝統文化の粋の前で、世界からやってきたお客さんが、うれしそうに写真を撮っていらっしゃいます。

 参道の反対側には、ワイン樽が並んでいます。フランスのブルゴーニュ地方から奉納されたものだということです。

 グローバル化する世界で、ローカルな文化がかえって輝きを増し、魅力的になるという現象は世界各地で見られるようです。日本でも、例えば大相撲熱は高まるばかりです。国技館には、たくさんの外国からのお客さんが詰めかけています。

 100年近く前に、人工林として始まった明治神宮の森。今、その豊かな緑の中に、世界中からのお客さんを喜ばせる日本酒の菰樽が並んでいる風景は、日本の今、そしてこれからを考える上での一つの象徴であるように感じます。

 そんなことを考えながら、参道をさらに進んで原宿側に抜けると、私の明治神宮の参拝も終わりです。原宿駅前の (にぎ) やかさにふれると、今まで自分がいた静寂さが懐かしくなると同時に、元気でがんばろうというエネルギーが湧いてきます。

 忙しい日常の中、心がしっとりと、奥の方からよみがえってくるような、そんな思いになる明治神宮でのひととき。ぜひ、おでかけになることをお勧めします。

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茂木 健一郎  (もぎ けんいちろう) 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

328311 1 世界を脳から読み解く 2018/06/11 03:00:00 2019/01/30 19:06:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180605/20180605-118-OYTPI50027-L.jpg?type=thumbnail

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