古都クラクフの「ラーメン・ピープル」

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 6月下旬、ポーランドの古都、クラクフに行ってきました。

 ポーランドの現在の首都はワルシャワですが、かつてはクラクフに都が置かれ、歴代の国王が住んだお城もありました。

 旧市街が世界遺産に登録されているクラクフ。歩いても走っても、とても魅力的な街でした。

 街の中心に川が流れ、そのほとりで人々が思い思いに散策したり、ピクニックを楽しんでいたりして、滞在中、とても豊かな気持ちになりました。

 訪れた目的は学会参加。

 お昼に学会会場を出て、さあ何を食べようといろいろと探るのがとても楽しみです。

「ラーメンな人々」? いや、ナルト?

 こんな時に、旅でうれしいのが、やはり、偶然の出会い。思わぬ店を見つけると、心が弾んで、つい入ってしまいます。

 学会中のある日、古都クラクフの裏通りを歩いていて、一つの看板が目に入ってきました。

 「ラーメン・ピープル」

 と書いてあります。

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 スタイリッシュなお店で、看板のデザインも 洒落(しゃれ) ていて、そこに「ラーメン・ピープル」と書いてあるのは、何かの間違いではないかと、もう一度見直しても、やはりそう書いてあります。

 直訳すれば、「ラーメンな人々」。

 しかも、「ラーメン」と「ピープル」の間にあるのは、ひょっとして「ナルト?」。

 そうです、ラーメンの具として定番の、あの「ナルト」のぐるぐる模様にしか見えません。

 一体、「ラーメンな人々」という名のお店の内側は、どうなっているのか、好奇心が湧いてきて、入ってみました。

 テーブルとカウンターがある、こぢんまりとした店内。テーブルにはもう先客がいて、熱心にラーメンを食べています。

 チャーシューが上にのった、なかなかに立派なラーメンに見えます。食べているのは、ポーランド人の男性の一人客。髪の毛を短く切って、日本風に言うと、どことなく「オタク」の雰囲気がないわけではありません。

 店の奥にはキッチンがあって、ポーランド人の女性が二人働いていました。

 二人とも、「今風」の感じで、なかなかおしゃれな雰囲気を醸し出しています。

 メニューを見ると、「 醤油(しょうゆ) 味のチャーシュー麺」と「 辛味噌(からみそ) 野菜麺」の二種類。

 ということは、先程の男性客が食べていたのは、「醤油味のチャーシュー麺」だったのでしょう。

 チャーシューも 美味(おい) しそうだなあ、と思ったのですが、私はなんと言っても「辛味噌」が好きなのです。

 そこで、「辛味噌一つください!」と英語で力強く注文しました。

 お値段は、日本円にして、1000円くらいでした。

割り箸、水、昭和の歌謡曲

 カウンターに座って思ったのですが、いろいろなところを、日本のラーメン店をお手本にまねしているようです。

 例えば、「割り箸」。日本風に、まとめて立ててありました。

 例の、紙に包まれて入っている、あの割り箸です。

 そうか、日本から輸入したのかな、と感心しました。

 お水が飲みたいなあと思って見渡すと、セルフサービスで置いてあります。

 このあたりも日本風。水の入った大きな容器の横に、コップが重ねて置いてあります。

 自分でコップを取って、水を入れているうちに、自分がポーランドにいるのか、日本にいるのかわからなくなってきました。

 その上、極め付きは、店内に流れている音楽。

 ずっと、昭和のアイドルの歌謡曲が流れているのです。

 これ、どこから持ってきたんだろう。

 遠いポーランドのお店で、懐かしい昭和な曲の数々を聞くのは、とても不思議な経験でした。

 お客さんや、店員さんは、日本語の歌詞の意味をわかっているのだろうか。

 やがて店員さんが運んできた、辛味噌野菜麺。

 スープも野菜も、普通に美味しかったのです。

 ただ、麺が、日本のラーメン屋さんの麺とは違うというか、もっと太くて、腰があまりなく、どちらかと言うと、うどんのような感触でした。

 おそらく、良いラーメンの麺を作ることは材料や技術の面でハードルが高くて、まだポーランドでは手に入りにくいのでしょう。

「出前」まで!

 それにしても、人気なお店のようで、私が食べている間も男性客二人が入ってきて、仲良く「醤油味のチャーシュー麺」を食べていました。二人が入ってきてすぐにラーメンが出てきたので、常連さんがあらかじめ電話か何かで注文しておいたのでしょう。

 しかも、「出前」までありました。自転車で食品をデリバリーするサービスの人が、店内に入ってきて、「醤油味のチャーシュー麺」を二つ受け取ると、さっと容器に入れて走り去っていったのです。

 まさか、ポーランドにまで来て、ラーメン屋の出前を見るとは!

 店員さんも、お客さんも、みな、ポーランドの人ばかり。

 ここまでラーメン文化は定着しているのかと、驚くばかりでした。

 後に検索すると、「ラーメン・ピープル」は、どうやら古都クラクフだけにあるお店のようです。

世界の人々の舌を結ぶラーメン

 その日の夕方、 () しくも、サッカーのワールドカップの日本対ポーランドの試合がありました。

 私は、「さっきのラーメン美味しかったなあ」と余韻に浸りながら、スポーツバーでビールを飲みながら観戦していました。

 サッカーというスポーツは、もはや国境を超えて地球を結びつけている。

 同じように、ラーメンもまた、国境を超えて世界の人々の舌を結んでいる。

 ラーメンと、サッカーと。

 古都クラクフで、グローバルな世界と、ささやかな地域文化の関係について、思いを () せたのでした。

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茂木 健一郎  (もぎ けんいちろう) 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

410683 1 世界を脳から読み解く 2018/07/09 03:00:00 2018/07/09 03:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180706/20180706-118-OYTPI50046-L.jpg?type=thumbnail

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