めんこ、ベーゴマ…身体が脳と遊んでいた頃

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 今の子どもたちにとっては、「遊び」とは、まずはテレビや携帯用ゲーム機、スマートフォンでやるゲームを指すのでしょう。オンラインで世界中の人とつながり、自分を磨いていく。そんな成長のプロセスは、とても大切です。

アナログな遊び「めんこ」

 私が子どもの頃は、当然のことですが、インターネットも、人工知能も、ゲーム機のようなデジタル機器もありませんでした。従って、より「アナログ」な遊びが主流でした。

 例えば、「めんこ」。

 時折、リバイバルブームがあって、今の子どもたちもめんこで遊んだりするようですが、私が子どもの頃は、めんこは、遊びの中心にありました。

 駄菓子屋さんなどでめんこを買い、仲間で集まって遊びます。さまざまなルールがあったのですが、基本は、自分のめんこを地面にたたきつけて、相手のめんこがひっくり返ったら自分の勝ち。そのめんこをもらうことができたのです。

 特に人気があったのが、「先祖代々」と私たちが呼んでいた、役者や武士などの、古い印象のめんこ。端の紙がささくれだっていたり、絵がにじんだり薄れたりしていると、「先祖代々」感が高まって、特に珍重されました。

 もちろん、本当は「先祖代々」だったはずはなく、お兄ちゃんからもらったとか、せいぜい数年くらいの古さだったとは思うのですが、子どもながらに「先祖代々」という言葉に、まるでそれが 骨董(こっとう) 品のような響きが感じられて、欲しくてたまらなかったのです。

身体を使い、工夫で腕を上げた

 めんこのような遊びにおいて大切なのは、「身体性」。自分の身体を使って遊び、いろいろと工夫することで腕を上げていく。そのプロセスが面白かったのです。

 例えば、めんこをたたきつけて相手のめんこをひっくり返す時に、風圧を高めるために、相手のめんこの近くに足を置くというようなテクニックがありました。そうすることで、たたきつけためんこから発生する風圧が、足に当たって戻り、相手のめんこをひっくり返す。そのように、当時の私たちは思っていたのです。

 もちろん、空気の動きを流体力学で解析したわけではないのですから、本当に相手のめんこをひっくり返す効果があったのかどうかはわかりません。いずれにせよ、そんなふうにわいわい工夫しながら遊ぶことで、脳と身体をうまく使うことを学んでいったのです。

セメント袋の上で回したベーゴマ

 めんこと並んでよく遊んだのが、「ベーゴマ」でした。当時は高度経済成長期。いろいろなところで、家が新築されていましたが、その建設現場に行って、職人さんにセメント袋を頂いて、それを張ってベーゴマを回す台として使っていたのです。

 ベーゴマにも、めんこほどではないにせよ、使い古したり、さまざまな加工を施したりしたものが珍重されるという感覚がありました。

 特に、ヘリの部分をぎざぎざにしたりして、相手のコマを (はじ) いたりするのが戦略でもあり、あるいはルール違反ともされ、ああでもないこうでもないと、そんな駆け引きに胸を熱くしたものです。

今の子どもたちの遊び方は?

 あれから時代が流れ、今の子どもたちはどれくらい昔ながらの遊び方をしているのでしょう。時折、街かどなどでみんなが集まって遊んでいるのを見ると、携帯ゲーム機で何かをしていることが多いようです。

 もちろん、今のゲームはネットにつながって、さまざまな高度な機能もあり、とても楽しいのだろうと思います。子どもたちの遊びは、どんどん進化しています。昔ながらの遊びだけが良い、というわけではありません。

 それでも、めんこをたたきつける時に足を置いたり、ベーゴマのヘリをぎざぎざに削ったりといった工夫は、「身体」を使って遊んでいるからこそです。このような身体性が、脳の発達に大切な役割を果たしていることは、さまざまな研究によって示唆されています。

 めんこやベーゴマなどの、伝統的な遊びが、世代を超えて今の子どもたちにも受け継がれていってほしいなと思う理由の一つが、脳と身体の結びつきにあります。

神社の境内にあった! 昔ながらのコマ

 先日、宮崎県高鍋町を訪れた時のこと。「旅ラン」にでかけ、町の中を走っていると、 素敵(すてき) な光景に出会いました。

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 神社の境内に台があって、その上に、コマがいくつか置いてあったのです。

 誰でも使えるように、ひもなども添えてあります。子どもたちがやってきて、台の上でコマを回したりできるようにしてあるのでしょう。

 訪れたのは、子どもたちの夏休みの時期。ひょっとしたら、この時期だけ、特別にコマが置かれているのかもしれません。あるいは、祭りか何かと関係しているのかもしれません。

 いずれにせよ、神社という伝統を感じさせる場所で、昔ながらの遊具が置かれているのは、心温まる光景でした。遊び方が世代を超えて引き継がれていく上では、このような小さな工夫の積み重ねが必要なのでしょう。

 私が走っていた時間帯には境内には誰もいませんでしたが、きっと、子どもたちが大人たちから遊び方を教わる、そんな光景が繰り広げられることもあるのでしょう。

 もし、そんな場面に出くわしたら、私も昔取った 杵柄(きねづか) でコマを回してみたいなあ。

 そんなことを思いながら、また旅ランを続けていったのでした。

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茂木 健一郎  (もぎ けんいちろう) 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

185024 1 世界を脳から読み解く 2018/08/27 03:00:00 2019/01/30 17:43:42 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180822/20180822-118-OYTPI50124-L.jpg?type=thumbnail

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