【最終回】大阪市中央公会堂に「歴史の奥行き」を見た

[読者会員限定]
無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 2025年の大阪万博の開催が決まり、改めて注目を集める大都市、大阪。今回は大阪のことを考えてみたいと思います。

「くいだおれ」「グリコ「花月」……

 初めて大阪の街を歩いたのは、大学院生の時に訪れた学会の際だったかもしれません。

 なんばのあたりを散歩し、道頓堀のお店のきらびやかな雰囲気に圧倒され、「くいだおれ人形」や、「グリコの看板」など、有名なアイコンを見ては驚き、喜んでいました。

 その印象があまりにも強かったので、大阪というとずっと、そのようなイメージでいました。

 なんばには、吉本興業の有名な「なんばグランド花月」もあり、何回か通っているうちに、大阪の笑いの感覚にも慣れ親しんで、大好きになっていきました。

 「吉本新喜劇」は、大阪の生活感覚にあふれた、素晴らしい芸術だと思います。

大阪にもいろいろある

 そんなふうに、大阪に行くとどちらかと言うと「なんば」や「ミナミ」の方に行っていた私ですが、ある時、大阪の知り合いに、こんなことを言われました。

 「ぼくは梅田から先には行かないので、知りません」

 その方は、大阪の北部の地域、いわゆる「北摂」の人で、大阪と言っても、「ミナミ」や「なんば」と呼ばれるところばかり行っていた私に、「大阪にもいろいろあるよ」と伝えてくださったのでしょう。

 それはそうだ、と思って、それからは大阪のさまざまな場所にもっと注意を向けるようになってきました。

 東京に住んでいると、大阪というとどうしても「阪神タイガース」や「吉本興業」「なんば」や「ミナミ」といったあたりに目が向きがちです。

中之島で語られた大大阪

 しかし、大阪くらいの大きな都市になると、当然のことながら、さまざまな側面があります。そう簡単にわかるものではありません。

 たとえば、「中之島」。

 江戸時代には、さまざまな藩の蔵屋敷が立ち並び、当時「天下の台所」と呼ばれた大阪のまさに中心だったようです。

 大阪大学も、かつては中之島に創設されたとのことです。

 時の流れを経て、今の中之島には、さまざまな伝統と格式のある建物があります。風格のある大都市としての大阪の魅力を私たちに伝えてくれます。

20190123-118-OYTPI50090
大阪市中央公会堂。東京駅の設計者・辰野金吾氏も実施設計に加わっている

 先日、その中之島にある「大阪市中央公会堂」で会がありました。私も「人工知能」についてお話しさせていただいたのですが、私がお話しする前にうかがった大阪の歴史についての講演が、とても興味深かったのです。

 私はきちんと認識していなかったのですが、かつて、大阪には「大大阪」と呼ばれる時代があり、当時は人口がその頃の「東京市」(東京都の前身)よりも多かったのだそうです。

 大阪市は、世界的に見ても第6位の人口を誇っていて、経済的にも、文化的にも繁栄していたとのことでした。

 そんな中、アメリカの経済人たちに社会貢献の文化があることに感銘を受けた岩本栄之助さんが多額の寄付をして、公会堂が建てられたのだそうです。

 岩本栄之助さんは、「北浜の風雲児」と呼ばれた相場師の方でした。

 その後、老朽化が進みましたが、近年になって保守、改修工事が整い、公会堂は今ではさまざまなイベントや集会に使われる、大阪の方々の誇り、心の () り所になっているということです。

都市をどのようなイメージでとらえるか

 私も、講演会の前に館内を見学させていただきましたが、本当にため息が出るほど美しく、立派で、かつて「大大阪」と言われたこの都市に暮らした方々の心意気、美的感覚の鋭さを体感したのでした。

 かつて、1970年に開かれた大阪万博が「太陽の塔」を始めとするさまざまなレガシーを残したように、2025年の大阪万博も大阪がさらに発展する上での大きなきっかけになるのでしょう。

 その時、大阪をどのようなイメージでとらえるかは、とても大切なことのように思います。

 食や、笑い、生活の豊かさといった、すでによく知られている大阪の伝統に加えて、それこそ「大大阪」の時代に培われた精神を、現代の大阪でも受け継いでいくこと、そして発展させていくことも、かけがえのないことだと思います。

 私はドイツの作曲家ワーグナーが好きなのですが、ワーグナーの聖地で毎年行われるバイロイト音楽祭も、かつて、大阪で引っ越し公演をしたことがあると聞いています。1967年のフェスティバルホールにおける『トリスタンとイゾルデ』が、バイロイト音楽祭としても初の海外公演だったそうです。

歴史の奥行きを知ること

 大阪は、奥行きの深い、文化にあふれた都市だと感じます。ユネスコの無形文化遺産に登録されている「文楽」も、大阪で発達しました。落語でも、大阪で育まれた「上方落語」は独特の魅力があります。歌舞伎でも、大阪で上演されて江戸にもたらされた演目がたくさんあります。

 そのような歴史の奥行きを知ることこそが、現代において必要な「教養」と言えるのではないでしょうか。

 考えれば考えるほどに、深く、幅の広い大阪の伝統。

 息をのむほど美しい大阪市中央公会堂の姿は、歴史の奥行きを考えることの大切さを、現代の私たちに伝えてくれているような、そんな思いがしました。

 (「脳とともに走る」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。2月から読売新聞オンラインで新コラム「世界を脳から読み解く」が始まります)

20190123-118-OYTPI50091

茂木 健一郎  (もぎ けんいちろう) 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

412073 1 世界を脳から読み解く 2019/01/28 03:00:00 2019/01/28 03:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190123/20190123-118-OYTPI50090-L.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ