急速に変化する時代を楽しもう

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 世界は急速に変化している。そして、その変化についていくためには、私たちの考え方、感じ方の整理が必要だ。

 技術革新のスピードが加速していることの例えとして、1年が7年に相当すると言われる「ドッグイヤー」、あるいは1年が18年に相当する「マウスイヤー」というような言い方がなされたこともあった。

 そのような表現さえもが今や古くさえ思われるほど、スピード感はさらに増している。今日の世界では、それこそ「一瞬」にしてさまざまなことの見え方が変わってしまう。価値観が更新されてしまう。そんな油断のできない、一方で楽しみな時代に私たちは生きている。

 変化する世界を理解する際、私たちが頼りにできるのは人間の脳だけである。私たちは、脳の認識や言語の能力を通して世界に接する。また、技術革新を通して文明を変えていくのも、結局は私たちの脳の力である。脳を使って、変化する世界についていかなければならない。

 世界を脳から読み解いていきたいと思う。自分たちに起こっていること、これから起ころうとしていることを理解するという営みを続ける限り、私たちは変化する世界でも自分たちの運命の主導権を握り続けることができるはずである。 

 一方、もし、理解することの努力をやめてしまったら、人類の行く末は危ういものになってしまうだろう。だから、世界について考えることが今こそ大切だと感じる。

今や無視できない人工知能

 これからの人間の社会、文明のあり方を考えるときに、いちばん無視できないことの一つは「人工知能」である。

 人工知能が急速な発展を遂げたことは、誰の目にも明らかだろう。スマートフォンのさまざまなアプリや、人間の音声を認識していろいろなことをしてくれるスマートスピーカー、あるいはウェブサイトで何か買うときの「推奨」リストまで、日常の至るところで人工知能の存在を感じるようになってきている。

 街中に自動運転車が走ったり、顔認識でゲートが開くなどの光景はすぐそこまで来ている。さまざまな定義や議論の仕方があるが、人工知能が人間を超える、あるいは制御不能なほどまでにその能力が増すという意味での「技術的特異点」、「シンギュラリティ」が来るというシナリオは、単なる絵空事とは片付けられなくなってきてしまった。

 人工知能は私たちの生活を根底から変えようとしている。では、私たち人間はどうすれば良いのだろうか?

人間の役割は、問題をつくりだすこと

 人工知能をめぐって議論していると、面白い考え方に出会うことがある。

 何度か耳にしたことがあるのは、「これからの人間の役割は問題を解決することではなく、問題をつくりだすことの方になる」という考えだ。

 これまでは、ともすれば、問題に対してすばやく「正解」を出せる人が評価されてきた。大学入試がペーパーテストで行われ、点数が高い人が選ばれてきたのがその象徴だろう。 

 正解が何かが決まっていて、その点数で評価される。このような仕組みがあることに関しては、人工知能はとても得意である。

 例えば、囲碁や将棋は、相手に「勝つ」ための基準がはっきりしている。次の一手が勝利にどのように貢献するのかも計算できる。

 このように「評価関数」がはっきりしていることに関しては、適切なやり方でシステムを組めば、人工知能は驚くべき能力を発揮する。

 グーグルの子会社「ディープマインド」が開発した人工知能「アルファゼロ」が、囲碁や将棋について最強の実力を持つに至ったのはその一例である。もはや、人間ではとても太刀打ちできない。人間界のトップ棋士がアルファゼロと対戦しても、勝つ見込みはほとんどないだろう。

 では、人間はどうすればいいのか。点数がはっきりと決まるような問題で高得点を出すという「秀才」型の能力は、これからどんどん人工知能で置き換えられてしまう。だからこそ、むしろ問題を見いだす、つくりだすような人こそが、これからの時代には求められるという結論になるのである。

トランプ大統領ら困った人が必要な時代?

 アメリカのトランプ大統領は、従来の意味での「大統領」らしくない振る舞いが目立つ。 

 伝統的な意味でのすぐれた大統領とは、それぞれの局面でさまざまな要因を考慮し、最も適切な政策決定を行える人のことだった。だからこそ、一つひとつの発言、決断に重みがあった。

 トランプ大統領の場合、むしろ、「場をかき乱す」ことがその役割であるようにさえ見える。ロシアや中国、北朝鮮との関係や、メキシコ国境の壁の建設、さらには貿易政策など、さまざまな重要な施策について唖然(あぜん)とするほど大胆な発言を繰り返し、しかもその内容が変わっていってしまう。

 それでも、アメリカの政治がそれなりに回っているのは、インターネットや人工知能といった技術インフラがしっかりと機能していて、それに支えられた有能なスタッフも働いていて、トランプ大統領がつくりだす「問題」を解決していってしまっているからだとも解釈できる。

 むしろ、場をかき乱す人は「部分最適」を抜け出して、全体を見渡した「全体最適」に至るために必要な「カオス」であるとさえ思えてくる。

 トランプ大統領の一つひとつの発言自体には首を(かし)げたくなることも多いが、結果としてそれでうまくいくこともあるのかもしれない。

 従来の価値観から見れば「困った人」が、むしろ人工知能時代には必要とされるのかもしれない。

 そのような発想の転換が必要な時代に、私たちは生きているのである。

茂木 健一郎
プロフィル
茂木 健一郎( もぎ けんいちろう
 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。
無断転載禁止
436479 0 世界を脳から読み解く 2019/02/11 05:20:00 2019/02/21 14:22:34 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190207-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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