曲がり角の大学入試

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 受験シーズンも、そろそろ終わろうとしている。

 受験生は、それぞれ全力を尽くしたことと思うし、また、結果はどうであれ、一つの目標を目指して頑張ったことは今後の人生に必ずよい影響を与えると思う。

 お子さんやお孫さんが受験だったという方々は、喜んだり、一安心されたりしていることだろう。日本中が何となくそわそわと落ち着かなく心配にもなる、この季節。でも、春は、もうすぐそこまで来ている。

 最近の日本では、学力の評価の仕方や入学試験のあり方について、さまざまな議論が行われ、また改革も行われようとしている。

 従来のペーパーテストの点数重視のやり方から、より総合的に人物を見ることや、その子のユニークな特性を見る方向に流れが変わっていっているようだ。大学入試のあり方も大きく変わろうとしている。

人間に求められる「学力」の変化

 時代背景としては、社会を取り巻く環境の変化がある。何と言っても、科学技術の変化、特に人工知能の発展。すでに、計算能力や記憶力では、人間はコンピューターには(かな)わない。パターン認識や推論の能力でも、次第に追い越されて、追いつけなくなってきている。

 ペーパーテストで測れるような能力の少なくともごく一部分は、すでに人工知能で置き換えることができる。この結果、人間に求められる「学力」も変化している。

 人工知能が苦手なのは、前例がない、つまり「ビッグデータ」の解析ができないこと。イノベーション論で言えば「ブルーオーシャン」の領域である。これからの時代の価値ある学びは、いかに一人ひとりが前例のない領域で創造的な仕事ができるか。そのようなことに役に立つ資質をいかに育むか、ということにポイントがあるように思う。

キーワードは「前例がない」、「創造的な仕事」

 翻って従来型のペーパーテストを見てみれば、それは同一のルールで多数が競い合う「レッドオーシャン」。人工知能の発達に伴って、ペーパーテストの重要性が低下するのは必然だと言えるだろう。

 すでに、ハーバードやエールといったアメリカのいわゆる「アイビーリーグ」の大学では、入学者選抜においてペーパーテストの点数は参考程度にしか見ていないとされる。実際、アメリカの大学入試の標準テストと、高校時代の成績の平均を基に、誰が合格して誰が落ちたかを表示したグラフを作成すると、入試の点数が満点に近くても不合格になり、低くても合格している人が多数いることがわかる。

 日本では、難関中高一貫校から東京大学にストレートで合格するような子でも、アメリカの大学だったら落ちる可能性がある。逆に、日本では大学入試のセンター試験の点数が足らずに「足切り」されてしまうような子でも、アイビーリーグならば合格するかもしれないのである。

日米で異なるエリート学生の基準

 アメリカの大学入試は、多数の専従スタッフを抱えて、志願者一人ひとりの資質やこれまでの履歴を徹底的に調べている。つまりは、時間も人もお金もかけて入学者選抜をしている。

 それに比べて、日本の大学入試は、これまで、大量の受験生を効率よく処理するために制度を整えてきた。つまりは、一番簡単で公平性が担保できるようにも見える「ペーパーテスト」の点数重視でやってきたと言えるだろう。

 時代が流れて、日本でも、遅ればせながら学力観の変化や、入試の変革が叫ばれるようになった。探求学習や、アクティブ・ラーニングといった新しい考え方も、次第に普及してきている。

 それでも、日本の入試が一足飛びにアメリカ型になるかと言えば、なかなか難しいかもしれない。アメリカのアイビーリーグの入試は、極端なことを言えば、どのような基準で合否を判定しているのか、一切外部にその内容が開示されない、いわば「ブラックボックス」である。日本人の公正、公平の観念から言えば、そのような入試がすぐに受け入れられるとは思えないし、また、大学のスタッフも、総合的な判定をするだけの準備ができてはいないだろう。 

 結局、日本においては、形を変えても、従来のような点数重視の入試がしばらくは続くものと思われる。

「地頭」を鍛えよう

 子どもたちはどうすればいいのか? 一つのやり方は、自分で考えたり、調べたり、仮説を立ててそれを検証したりといった「地頭」を鍛えることである。

 自分で考える能力を持つことは、これからの時代、必ず役立つ。そのためには、自分が興味を持ったことを徹底的に追求して、それを調べていくのがよい。

 そのようにして地頭を鍛えた子は、結果として入試の点数も良くなる。中長期的に見れば、ペーパーテストの点数を取ること自体には意味がなくなっていくが、ある程度の点数稼ぎも過渡期においては必要なことである。

 これからの時代に一番価値のあることは、地頭の良さである。まずは地頭を鍛えて、その応用として、受験勉強で必要なスキルを身につける。そうすれば、目の前の入試も突破できるし、一生続く適応力も獲得することができる。

 地頭と、その上に築き上げる能力。これからの時代には、そんな「2段階」の学びの方法が有効になるのである。

プロフィル
茂木 健一郎( もぎ けんいちろう
 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。
無断転載禁止
456495 0 世界を脳から読み解く 2019/02/25 05:20:00 2019/02/25 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190220-OYT8I50006-T.jpg?type=thumbnail

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