学級崩壊? いえいえ…イギリス議会から学ぶこと

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 イギリスのEU離脱問題が、すっかり「泥沼化」している。

写真はイメージです
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 メイ首相がEUと交渉し、まとめ上げた離脱協定案が、議会で何度も否決。EU離脱にもともと反対だった人たちと、EUと縁を切ってイギリス独自の貿易交渉をすべきだという「EU離脱強硬派」の双方が離反するという複雑な構図となっている。

 この文章を書いている時点で、先がどうなるのか、一向に見通すことができない。イギリス国内でも、ここまでの混乱は予想していなかったらしく、イギリス憲政史上最大の危機の一つとの声が上がっている。

 人間の本質は、危機の時にこそ表れる。

 今回、EU離脱問題をめぐる英下院の論争が、インターネットでも延々と中継されていた。仕事をしながらそれを見たり、聴いたりしたりしてつくづく面白いと思った。

 私自身、イギリスに留学したこともあり、また審議のハイライトは見たことがあったが、イギリス議会の審議のやり方をこれだけ長時間見たのは初めてだった。心から興味深い点がいくつかあった。

思い思いに発言する議員たち

 まず、出席議員が誰でも発言して良い時間帯があるということである。発言したい議員は、起立して、大きな椅子に座った議長が指名する。すると、それほど広くはない議場の至るところに仕掛けられたマイクが、その議員の発言を拾う仕組みになっている。

 わざわざ、席を離れて発言席まで歩いていく手間がないから、テンポが良い。次々と議員が立ち上がって、思い思いの発言をする。

 どうやら、どのような議題や質問を扱うかも、事前に完全には決まっていないらしい。というのも、EU離脱問題を延々と論じたあとに、議長が「他に何か?」と促すと、議員が立ち上がって、これまでの流れと全く関係のないテーマを論じ始めることが何度もあったからだ。

 最近亡くなった議員に対する追悼と感謝の気持ちを表する。

 社会で課題になっているセクハラやパワハラについて、議会としての姿勢をただす。

 問題発言をした政治家や議員を非難し、そのような発言が許されないことを再確認する。

 自分の選挙区の事務所の近くで、表現の自由を脅かすような示威行動があったと議長に報告し、そのような行為が許されないという発言を引き出す。

議場への出入りも自由?

 延々と続く議論を聴いていても全く飽きないのは、それぞれの議員が自分にとって大切だと思う論点を提出し、熱く語るからだろう。それに対して議長も当意即妙な反応をして、必要ならば正式な議題として提出することを促したり、あるいは他の議員につなげたりする。

 興味深いのは、どうやら一部の動議や採決の確認などを除いて、議場への出入りが比較的自由であるらしいことだ。メイ首相や労働党のコービン党首が対決するような時間帯は、席がいっぱいになって立ち見も出るが、大半が出ていってしまって、議場に10人とか20人とか、パラパラと議員が座っているだけのこともある。

 議場にいる議員の数がどれくらいであるかということに関係なく、皆とても熱心に議論を続けているのが印象的である。特に、その日の審議の最後の方になって、多くの議員が帰ってしまったあとも、いわば「居残り」のように議論を続けている議員たちは、前向きで、熱い討論をしているという印象が強い。

 今回のEU離脱問題はイギリスの国家的危機であるし、そのプロセスで、イギリス議会が最適な行動をとってきたとは限らない。

 それでも、長時間インターネット中継に付き合って垣間見たイギリス議会のあり方は、民主主義の原点がそこにあるようで、感動的であった。

日本の国会は形式優先?

 ひるがえって日本の国会審議を見ると、お行儀はいいけれども、形式的なルールに縛られているところが多いようにも感じられる。

 しばしば、日本の国会では議員が居眠りしていると揶揄(やゆ)される。発言する人があらかじめ決まっていて、政府側の答弁も官僚が書いたものだとわかっているのでは、脳が退屈して眠くなってしまうのも仕方がないのではないだろうか。

 イギリス議会のように、誰でも、議長の許可を得れば発言できるとなれば、議員たちももっと緊張感を持って能動的に審議に参加するのではないかと思う。

 イギリス議会は日本の国会から見ればまるで「学級崩壊」である。しかし、どちらが実質的な審議をしているのかと言えば、考え込んでしまう。

 そもそも、マナーをあれこれ言い過ぎるのは考えものである。審議の途中で議場を出入りするのを、日本の国会ですぐに許すというのは難しいかもしれない。しかし、情報をやりとりしたり、メモしたりするのにスマートフォンやタブレットを使うくらいは許可しても良いのではないだろうか。

本質を見失わないために

 「一人学級崩壊」と言われることの多い私個人としては、イギリス議会のやり方が性に合っているようだ。実際、中継では、他の議員が発言中に、手元でスマートフォンを触っている議員が普通に見られるのには驚いた。

 イギリス国内でそのような行為がどう評価されているのかはわからないが、少なくとも日本の国会よりは議員の振る舞いは自由なようだ。

 ルールを厳格化すると、本質を見失うというのはよくあることである。イギリスの議会、日本の国会、それぞれの良いところ、足りないところを認識するためにも、もっと議会運営の方法の比較、研究が行われても良いのではないかと思う。

プロフィル
茂木 健一郎( もぎ けんいちろう
 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に、「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。
無断転載禁止
502190 0 世界を脳から読み解く 2019/03/25 05:20:00 2019/10/09 09:34:22 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190320-OYT8I50017-T.jpg?type=thumbnail

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