夏休み、子どもは何に手を伸ばす?

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 夏休みが始まった。子どもたちが、遊びや課外活動、夏休みの宿題のテーマの設定などで、その「個性」を伸び伸びと発揮できる大切な時間である。 

 個性との向き合い方は難しい。親や先生がこのテーマがいいだろうとすすめても、子どもが興味を示さないこともある。逆に、子どもがこれに興味があると目を輝かせても、大人から見ると果たしてどうなのだろうと思うこともある。

 時代の流れもあるのだろう。最近は、個性をめぐっていろいろ思いを巡らせたり、議論したりする機会が多い。

 大人にとっても、もちろん個性は大切だが、子どもは発展途上である。子育て真っ最中の方、あるいはこれから出産する方から、しばしば、個性を大切にした学びのあり方について相談される。

 「わが子に合うものは、どのようにして見つければ良いのでしょうか」と聞かれるのである。

 そんな時は、こう答えることにしている。

 「お子さんの前に、いろいろなものを並べてみてください。その中で手を伸ばしたものが、その子に合っているのです」と。

 子どもの脳は、好奇心にあふれている。幼い子どもにさまざまな刺激を提示すると、目新しいものを長く見る傾向がある。子どもの脳は、常に新しいものを探しているのである。

 神経伝達物質であるドーパミンを中心とする脳の「報酬系」と呼ばれる場所は、「未知」のことに特に強く反応する。意外な喜びがあったり、楽しみがあったりすると、その関連の神経細胞のネットワークが強くなる「強化学習」が起こる。

 新しいものが提示された時、子どもたちは好奇心に目を輝かせる。そして、手を伸ばし、遊び、熱中の時間を過ごす。

 その際、子どもの脳の中ではドーパミンが放出される。ドーパミンの作用により、脳の神経回路が強化されて、情報処理が効率よく行われるようになったり、深く物事を考えたり、あるいは巧みに身体を動かせるようになる。ドーパミンの放出で脳の回路が強化されるサイクルが回って、次第に子どもの脳は成長していく。

 子どもはしかし、飽きることもある。どれくらい遊ぶと飽きてしまうのか、それとも飽きないのか。もし、何かに熱中した時に、なかなか飽きることがなく、次から次へと新しい見方を発見したり、それまでにない関わり方ができたりするようになれば、そのことが結局、その子どもに合っているのである。

 したがって、何が子どもに合っているのかを知るには、さまざまなことにチャレンジさせるのが良い。すぐに飽きてしまうのか、それとも粘り強く続けるのかどうか。それぞれの子どもによって、夢中になる対象が変わってくる。

 目の前に選択肢がたくさんあった方が良い。子どもには、世界全体のことはわからない。好奇心にはあふれているけれども、その好奇心をどうすれば満たせるのかまではわからない。

 だから、大人が手助けし、選択肢を示して助ける。世界には、こんなにたくさんの面白いことがあるのだよと教えてあげる。そのようなサポートが大切なのである。

 その際、何を選ぶかは子どもに任せる。決して押し付けず、子どもが何に興味を持つかをじっと見守る。そして、もし熱中することがあったら応援してあげる。これが、一番の子育てであると私は考えている。

 私自身、幼い頃、いろいろなことをした記憶がある。その中には、絵を描いたり、楽器を弾いたり、スポーツをしたりというようなこともあったように思う。昆虫採集もした。両親がそのようなきっかけをつくってくれたことに感謝している。

 その中で、昆虫に興味を持った。昆虫の中でも、なぜか「(ちょう)」が私に合っていた。蝶の研究に夢中になって野山をかけめぐり、いろいろ調べていた。小学校に上がるかどうかの時期に、「日本鱗翅(りんし)学会」という蝶や()を研究する学会に入って、例会にも行っていた。

 そこから、いろいろと世界が広がっていった。幼い頃の私にとっては、趣味と言えば「蝶」で、そしてそれが私に合っていたけれども、あれも、幼い時に自分の前に並んださまざまなものから、選んだのだと思う。

 もっとも、子どもの頃夢中になるものが、将来の職業に直結するわけではない。実際、私も蝶に夢中になって、大人たちに「将来は蝶博士だね」と言われていたけれども、小学校5年生の時にアインシュタインの伝記を読んで感動して、物理学を志すようになった。大学では理学部の物理学科に進んだが、大学院で生物物理学を専攻して、博士号を取った後、脳科学を研究するようになった。

 長い人生、何が起こるかわからない。個性は「積み重ね」でもある。どの時点でも、将来何をしたいかは「仮説」に過ぎない。夢は決まったものではなく、柔軟に変化するものである。

 それでも、子どもの頃、最初に手を伸ばして夢中になったものが個性の「芽」になることは間違いない。

 この夏休みにお子さんが出会うものが、長く続く個性の成長の出発点になるかもしれない。そう考えたら、夏を迎えるのがわくわく楽しみになってくる。大人も一緒になって、子どもの個性の「種」を探すのが良いのである。ご両親はもちろん、おじいちゃん、おばあちゃんも一緒になって子どもの個性探しを助けてあげたら素敵(すてき)だと思う。 

プロフィル
茂木 健一郎( もぎ・けんいちろう
 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮新書)など。近著に「本当に頭のいい子を育てる 世界標準の勉強法」(PHP新書)。
無断転載禁止
713671 0 世界を脳から読み解く 2019/07/30 05:20:00 2019/10/09 09:30:36 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190726-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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