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脳が喜ぶ「おもてなし」へ、東京五輪を機に一層の進化を

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 2020年を迎え、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づいてきた。

 昨年のラグビーワールドカップの際も、世界各地からたくさんの観光客が来日した。今年の両大会には、さらに多くの人が訪れるだろう。

 訪日客を指す「インバウンド」という言葉を耳にする機会が増えた。日本の経済にとっても、日本への旅行者向け商品、サービスが重要になってきている。

 そんな中、日本流の「おもてなし」が改めて注目されている。この言葉、振り返れば、東京へのオリンピック招致の際のプレゼンテーションで前面に打ち出されたのだった。

 あれから7年。おもてなしの精神は日本にとってますます大切な資産になっている。

京都の寺社仏閣を楽しむ外国人観光客(2019年1月)
京都の寺社仏閣を楽しむ外国人観光客(2019年1月)

 もともと、日本におけるおもてなしは、対等の関係性に基づく。茶席で、主人と客は同じ人間として向き合う。どちらが上、下ということはない。主人は客のことを懸命に考えて、心づくしをする。客もまた、主人の心を尊重し、その真意を()み取ろうとする。

 そんなおもてなしのあり方は、現代に至るまで日本の店などにおけるサービスの提供の仕方の根幹をなしている。そのことを、私たちはあまり自覚していないかもしれない。

 おもてなしの精神の一つの表れとして思い浮かぶのが、レストランにおける「おまかせ」という提供方法だ。

 欧米では、客がメニューを見て、自分が食べたいものを注文するのが一般的である。それに対して、おまかせでは主人に全てがゆだねられる。

 根底にあるのは、信頼関係。主人は客の好みに通じているからこそ、また客は主人の趣向や気遣いを楽しめるからこそ、あうんの呼吸でおまかせの味わいが増していく。

 脳の働きから見ても、おまかせが効果的な理由がある。

 レストランに入って、何を食べるか自分で選ぶのは楽しい半面、面倒でもある。注文を終えるまではリラックスできず、あれこれと迷わなければならない。

 メニューを見て、選ぶのは脳の前頭葉の働きである。注文を決めなくてはというプレッシャーがあると、前頭葉の回路が目いっぱい機能しなくてはならなくなる。

 その点、おまかせならば、テーブルに座った瞬間からリラックスできる。食事をともにする人との会話に集中したり、店内の様子を楽しんだりできる。脳の前頭葉が最初からリラックスできるのだ。

 また、おまかせは、脳が喜びを感じる回路である報酬系の活動を活性化させる。思わぬサプライズで、神経伝達物質のドーパミンが放出されるのである。これにより、神経細胞同士を結びつけるシナプスが強化されて、脳がより強靭(きょうじん)になっていく。

 自分でメニューの中から選んだ場合だと、どんな料理が出るかは想像できてしまう。それでももちろんうれしいが、予想の範囲を超えるものではない。

 一方、おまかせでは、何が出てくるかわからないので、意外性がある。ドーパミンの放出は、予想していない報酬の際に最も多いという研究がある。

 このように、おまかせという料理の提供法は、脳の働きから見て合理的な点が多い。最近、海外のレストランでも、「OMAKASE」という言葉を使って、同じようなサービスの方法が流行し始めているのもうなずける。日本発の、レストラン文化の革新である。

 もっとも、おまかせには難しい側面もある。日本でおまかせが発達したのは、社会の中での暗黙の了解事項、共通点が多いという前提があるからである。お客さんに、このような料理を提供すれば喜んでもらえる――という推測が難しければ、おまかせは成り立たない。

 食べものの好き嫌い、食材や調理法の制限などがあって、それを確認しなければならない場合、おまかせは成立しづらくなる。実際、最近は、おまかせの店でも、「アレルギーや苦手な食材はありませんか」と客に確認するケースが増えてきているという。

 「おもてなし」や「おまかせ」といった日本の伝統的なやり方が注目される一方で、そのような人間関係、あうんの呼吸を嫌い、ドライで割り切ったサービスを望む人もいるだろう。要は多様性が大切なのであって、それらの一つに、日本流のやり方があってもいい。

写真はイメージです
写真はイメージです

 世界から、日本の食やサービスのあり方が注目される時代になった。私たちが、自身にとって当たり前のことを見つめ直す良い機会でもある。日本的なおもてなしやおまかせの良い点はどこにあり、その限界は何か、さらに改善するためにはどうすべきか……。いろいろ模索するのは有意義なことだ。

 海外から来たお客さんに、事前説明一切なしのおまかせはハードルが高いだろう。料理の具体的な内容は明かさないにせよ、イメージの説明ぐらいはしたほうが良いかもしれない。「最初は野菜を中心に軽く、次第に海の幸を使った心躍る料理となり、和牛を用いた驚きのおいしさの一皿から、目を見張るようなご飯でクライマックスを迎えます」というふうに。

 その上で、相手の脳が喜びを感じるようなサプライズが必要だ。料理にストーリーを持たせ、演出をすると言い換えても良いだろう。今年の東京オリンピック・パラリンピックが日本の「おもてなし」「おまかせ」を進化させるきっかけとなればと願う。

プロフィル
茂木 健一郎( もぎ けんいちろう
 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮新書)など。近著に「脳とクオリア なぜ脳に心が生まれるのか」(講談社学術文庫)。

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使い方
1003061 0 世界を脳から読み解く 2020/01/17 05:00:00 2020/01/17 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200110-OYT8I50057-T.jpg?type=thumbnail

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