新型コロナの感染拡大、室内でも体動かし筋力低下を食い止めよう<フレイル講座特別編>
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じっとしては、いられない
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、外出を控えたり、イベントを中止したりする動きが広がっている。ただ、自宅でじっとしていては、筋力の低下や食事量の減少で、「フレイル」の悪循環も心配になる。今回は「フレイル講座・特別編」として、室内でできる運動や、生活する上での注意点を専門家に尋ねた。
手術後の高齢者などのリハビリを担当する苑田会人工関節センター病院(東京都足立区)の理学療法士、田中友也さん(36)に、室内でできる5種類の運動を教えてもらった。
ストレッチで肩の動きスムーズに

「活動量が減ると、筋力や体力はあっという間に落ちてしまう。落とさないような努力を続けることが大事です」と話す田中さんがまず紹介してくれたのは、タオルを使った腕や肩回りのストレッチ。肩の動きがスムーズになり、洗濯物を干す動作などがやりやすくなるという。
椅子に座って、タオルを肩幅に合わせて持ち、両腕を上に伸ばした状態でスタート。まずは、上に伸ばした両腕を横へ倒す=図〈1〉=。腕や体の横が気持ちよく伸びているのを感じられる位置で、10秒。真ん中に戻して腕を下ろし、一呼吸置いて反対側も同様に。これを3セット。
次に、タオルをピンと張ったまま、頭の後ろ側を通るように両肘を曲げる=図〈2〉=。「胸は開き、頭が下を向かないように注意します」。10秒数えたら元に戻し、3回繰り返す。
腹筋、太もも、お尻の筋肉を鍛えよう!
「特に意識してほしい」と話すのが、腹筋と、太ももやお尻の筋肉だ。立ち上がったり、歩いたりする際に使い、活動の基本となるためだ。
床や畳に横になり、ひざを軽く曲げて、両手はへその下へ置く運動=図〈3〉=では腹筋を鍛えられる。トイレを我慢するイメージでお尻にきゅっと力を入れ、2秒数えたら脱力する。これを10回繰り返す。
力の入れ方が難しいが、「下腹がへこんでいたら正解。お尻の筋肉を触って、力が入っているのを確認してもいい」。お尻を少し浮かせた姿勢にすると、効果が高まるという。
テーブルと椅子(キャスター付きでないもの)を使った運動=図〈4〉=は、太ももやお尻の筋肉を鍛えられる。腰掛けてテーブルに手を置き、立ったり座ったりを10回繰り返す。
「ポイントはテーブルとの距離」。椅子をテーブルからやや離すと、立ち上がるときに前
ながら運動、すきま時間の活用でOK

最後に、歩く力を維持する運動=写真=。腰掛けた状態で、足踏みする。体力に応じ、10~30秒続ける。
いずれの運動も、呼吸を止めず、痛みのない範囲で行うのが重要なポイント。田中さんは「頑張りすぎる必要はない。テレビを見ながらや、電子レンジでご飯を温める待ち時間などに、毎日少しずつでも続けてみてほしい」と話している。
ふだん通りの生活に近づける工夫を

感染症の流行で外出しにくくなる状況は、新型コロナウイルスに限らず、毎年の季節性インフルエンザなどでも起こりうる。フレイル予防の観点からは、できるだけふだん通りの生活に近づける工夫が重要だと、医療関係者は指摘する。
歩いて行ける近所なら安心
在宅医療に力を入れる新田クリニック(東京都国立市)では「こういう場合、どうしたらいいか」と質問する高齢患者が増えているという。
新田国夫院長は「70~90代の多くは単身か夫婦2人暮らしで、行動範囲もそれほど広くありません。重症化するリスクがあるので注意は必要ですが、感染を心配しすぎるのもどうかと思います」と話す。むしろ、「80代だと、4日ほど歩かなかっただけで車いす生活になってしまうケースも目にする。私は、感染症を恐れるあまり、体の状態が悪化することを心配しています」と話す。
不安の少ない外出先として、「徒歩などで行ける近所」を挙げる。人が少ない時間帯を選ぶのがベターだが、買い物に出かけたり、友人と会ったりすることで、気持ちも明るくなる。「不安を抱えたまま家に閉じこもるのはよくない。心身の健康を保つよう努めてほしい」と話す。
人とのつながり、減らさないで
フレイル予防が専門の北村明彦・東京都健康長寿医療センター研究部長も、マスク着用や手洗いなど予防策をとった上で散歩や買い物を続けることを推奨。「1日2000~3000歩を確保して」と目安を示す。筋力を落とさない工夫としては、テレビ体操などを見ながら、室内で体を動かす方法もあるという。
閉じこもりがちの生活だと、人とのつながりが減る。誰とも話さない日が続くのは望ましくない。「離れて暮らす家族が、ふだん以上に電話やメールでやりとりするなど、気持ちを楽にしてあげて」と助言する。
さらに感染が広がった場合の対策も考えておく必要がある。買い物などに出かけられなくても栄養のある食事がとれるよう、「スーパーの宅配やお弁当の配食など、住んでいる地域で利用できるサービスを調べ、いざという時に使えるように準備しておくことも大切です」と強調する。