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アンチエイジングな生き方を皆さんと考えていく連載をはじめることになりました、堀江重郎と申します。
アンチエイジングって怪しい?

食べ物、エクササイズ、サプリメントに、見た目の改善などなど、ネットにはどこを見てもアンチエイジング情報が氾濫しています。
アンチエイジングというと、手軽な健康法であるならまだしも、若く見られたいという人の欲望につけこむ怪しげな商売のうたい文句ではないか、と苦々しく思われている方も多いと思います。また、人は加齢とともに成熟して成長するという東洋哲学的な見方からすると、老いを受容せずいつまでも「若さ」という煩悩にしがみつくことが「アンチ」という語感と相まって、醜いと感じられるかもしれません。
自分の意思で体調を管理したい
それはそれとして、振り返ってみると、このアンチエイジングへの関心の高まりは30年前にはありませんでした。この30年の間に実は医学は大きく進歩して、加齢がどういう影響を皮膚、目、脳といった臓器、そしてそれを構成する細胞や血管に与えるかが解明されてきたのです。
これは半導体の進歩により、われわれの社会生活がITで大きく変化しているのと同じように劇的な現象と言えましょう。スマホもネットも全く使わない人ももちろんいますが、世の中の多くの人はスマホやネットが日常生活で便利と感じています。おそらくアンチエイジングについても、世の中の多くの人が関心を持っている背景には、自分の意思で自分の体調を管理したい、自分の容姿を整えたい、という関心が高まっているのだと思います。
ネズミでは「若返り」が起きた!
さて、アンチエイジングはそもそも果たして可能なのかという疑問に対しては、実はアンチエイジングの決定的な研究が2014年に発表されています。この研究は、高齢のネズミと、若いネズミの、それぞれのおなかの血管をつないで、お互いの血液が自由に行き来できるようにしてしまうと、どういう変化が起こるかを調べたものです。
驚いたことに、若いネズミの血液が高齢ネズミに入ると、高齢ネズミの脳神経や筋肉が新たに再生して、機能が改善する、若返りが起こってしまいました。筋肉や認知力の衰えは、加齢に特徴的な現象ですが、この研究から、加齢によるからだの変化の中には何らかの物質あるいは何らかの環境の変化で元に戻るものがありうることがわかりました。
細胞のレベルでいうと、すでに加齢変化を起こしている細胞を、まっさらな細胞に変えるのがノーベル賞を受賞された山中教授のiPS細胞です。iPS細胞は、生きているうちに起こる遺伝子の変化をデフォルトにリセットするという点で、ある意味、究極のアンチエイジングと言えるかもしれません。
「健康な人のさらなる健康」へ
このような医学研究の進歩から、人の寿命も100歳超えが普通になってくるだろうと予想されています。でも、100歳近くになっても自立して社会参画が可能なのだろうか、不安もよぎります。
アンチエイジングを日本語に訳すと「抗加齢」という言葉になります。健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団による健康長寿ネットでは、抗加齢医学を「疾病の医学が対象としている『病気の治療』から、『健康な人のさらなる健康』を指導するというプラスの医療の考え方を持ち、いわば究極の予防医学ともいえるでしょう」と紹介しています。
抗加齢医学を研究する医師、医療者の学会が日本抗加齢医学会です。2001年に発足した日本抗加齢医学会では現在、8000人を超える会員が、熱心に抗加齢医学の研究、そして実践を行っております。
「余分なもの」の浄化
美は、余分なものの浄化である、というのは理想的な人間のかたちを追求したミケランジェロの言葉です。まさにこの「余分なもの」がどうして、からだに蓄積していくのかが、アンチエイジング医学の大きな関心事です。
京都大学理学部の森和俊教授は、からだのたんぱく質の品質がいかに保たれているのかを解明して、米国のブレイクスルー賞という輝かしい賞を受賞されました。この森教授も、どうして加齢によって、たんぱく質の品質が悪くなるのかはまだわかっていないと仰っています(堀江重郎対談集「いのち」より)
パソコンもスマホも、忙しく使っているうちにハードディスクが劣化していきます。ディスクの掃除も一時的にはパソコンの作動を良くしてくれますが、根本的な解決にはなりません。同じように私たちの設計図であり、ハードディスクでもある遺伝子も、刻一刻と劣化していってしまうのをどう防いでいくかが、アンチエイジング医学の「核心的」な関心事といえるでしょう。
この連載では、抗加齢医学の世界の最前線をわかりやすく紹介し、いつまでも「ハツラツ」とした人であるヒントを考えていきます。
