テロメアを伸ばす生活、がん治療でも重要

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 さて今回は、がん治療とテロメア(DNAを格納している染色体の末端に付いている部分)について考えます(前回記事はこちら)。

スタンフォード大学の研究

写真はイメージです
写真はイメージです

 1989年ですから今から30年前に、アメリカのスタンフォード大学で行われた研究を紹介しましょう。転移がある乳がんの患者さんを無作為に二つのグループに分け、一つのグループは当時の標準治療である抗がん化学療法だけを行い、もう一つのグループはこの標準治療に加えて毎週1回90分間患者さんが集まって皆で話し合いをするグループ心理療法を1年間行いました。

 このグループ心理療法には乳がんを経験している精神科医、あるいは心理療法士も同席して、がんになったことについてのそれぞれの思いや、生活への影響、特に抗がん剤や放射線治療に伴う副作用についてお互いが話しました。

 もちろん、病気の将来に対する不安や家族への思いも話されたと思います。とくにセッション中はメンバーそれぞれが孤独を感じないように、いろいろな形で触れ合いを深めるような工夫がなされました。

 このグループ心理療法では、最初は自分ががんになってしまったという不安や、心情をお互い吐き出す場でしたが、回を重ねるうちに話し合う内容は変化していき、グループとして乳がんという病気をどう家族や社会へ伝えていくかというふうに、個人の問題からグループ全体のことを考えるようなっていきました。

グループ療法は生存期間を延ばすか

 さて、ここで質問です。

 30年前では、転移がある乳がんの患者さんが標準治療を受けた時、つまりこの研究における対照群の平均余命は18か月でした。では、このグループ療法、つまり患者さん同士が集まり、友人となり、話し合うセッションを1年間行ったことは、はたして生存期間を延ばす効果があったのでしょうか?

 こういうことを私が医学部の学生に聞いてみると、「標準的な治療のグループが18か月だったら、グループセッションを行ったグループは24か月、あるいは36か月に寿命が延長する」という答えが結構多いのです。

 実は新しい抗がん剤が新薬として認められる時は、だいたい、その治療群の平均余命が3か月延びることが最低の基準です。もちろん治療が奏功して長く生きる人もいれば、その治療が効かないため、ほとんど効果がない人もいます。

 しかし、グループ全体として3か月寿命が延びてくると、がん治療の新薬として認められる、こういうことを学生に告げると、最初の直観から見方を変えて「それでは新薬の効果と同じ3か月延びる」、あるいは「さすがに新薬よりは少ない2か月かな」と言ったり、36か月と言っていた人が「それでは(標準治療のグループより)6か月延びて24か月ぐらいかな」と答えたりします。

 いずれにしても、週1回患者さん同士が集まって話し合うことが平均寿命を延ばすということ自体に学生さんは疑いを持ちません。

生存期間は2倍に

 実際の結果はどうだったのでしょうか?

 驚くなかれ、週1回1年間、患者同士で集まって、だべっていたグループは36か月、つまり、抗がん剤の治療だけを受けたグループの2倍に生存期間が延びたのです。皆さんの直観はいかがでしたでしょうか? 

 ストレスを皆で分かち合うことが、広い意味での健康につながることは誰もが感じていることです。特にがん治療では、薬ががんを攻撃する時に、免疫を担当する白血球、リンパ球の働きが重要ですが、みんなでだべると免疫力がアップするのでしょうか?

3か月後に明暗くっきり

 このメカニズムを示唆する研究が、2015年になって、カナダのカルガリー大学で行われました。

 患者が集まってだべるグループセッションは、専門的には心理社会的(psychosocial)介入と呼ばれます。カナダの研究では、様々な病期の乳がんの患者さんで、治療後も深い悩みを抱えた方を対象に、毎週グループでの心理社会的介入あるいは瞑想(めいそう)を3か月行うグループと、ストレスマネジメントに対する講義を1回行うグループに分け、3か月後のテロメアの長さを比較しました。

 この研究では、瞑想あるいは心理社会的介入を受けたグループでは、ストレスホルモンであるコーチゾールの分泌が正常化し、白血球のテロメアの長さが短くならなかったのに対し、ストレスマネジメントの講義を受けたグループではコーチゾールの分泌が日中の間続き、わずか3か月後だったにもかかわらず、テロメアの長さが短くなってしまいました。

「くよくよしない」生活を心がけて

 白血球のテロメアの長さとがん治療については、免疫を担当する白血球のテロメアが短くなると、免疫反応が弱くなることから、がんを攻撃する免疫力が落ちると考えられます。

 我々医師もがん治療においては、「くよくよ心配しないで」とか「治療の時は笑いましょう」とか言って、患者さんに話しかけるのですが、経験則ながら結果的にテロメアを伸ばす方法なのですね。

 がん治療においても、積極的にテロメアを伸ばす日常生活が大事です。

 そのためには、果物、野菜といったテロメアを伸ばす食事のみならず、瞑想のように、ストレスを積極的に解消する方法、そして仲間と集うことでストレスを発散することも大事だと思います。

 アンチエイジングはがん治療の効果を上げるためにもとても重要なのです。

 

堀江 重郎
プロフィル
堀江 重郎( ほりえ・しげお
 順天堂大学大学院教授。泌尿器科医。日米で医師免許を取得し、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学を学ぶ。国立がんセンター中央病院、帝京大学教授などを経て、2012年より現職。アンチエイジング医学を研究する医師が集う日本抗加齢医学会理事長。手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を駆使する泌尿器科医のトップランナーとしても知られる。

無断転載禁止
476783 0 アンチエイジングな生活 2019/03/08 05:20:00 2019/04/08 11:09:44 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190307-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

 


東京オリンピックパラリンピックオフィシャル新聞パートナー

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
The Japan News
発言小町
OTEKOMACHI
ささっとー
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ