がん治療後こそアンチエイジングが必要

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 テロメア(DNAを格納している染色体の末端に付いている部分)とアンチエイジングの話題を続けます。今回はがん治療とアンチエイジングです(前回記事はこちら)。

がんの5年相対生存率は62.1%

写真はイメージです
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 国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、2014年に新たに診断されたがん(罹患(りかん)全国合計値)は、86万7408例(男性50万1527例、女性36万5881例)。16年に新たに診断されたがん(全国がん登録)は、99万5132例(男性56万6575例、女性42万8499例。男女の合計が総数と一致しないのは、性別不祥の例があるため)でした。一方、17年にがんで死亡した人は、37万3334人(男性22万398人、女性15万2936人)となっています。

 あるがんと診断された場合、治療でどのくらいの命を救えるかを示す指標に、5年相対生存率があります。これは、あるがんと診断された人のうち、5年後に生存している人の割合が、日本人全体(年齢、性別の分布が同じ集団)で5年後に生存している人の割合と比べてどのくらい低いかで表します。

 100%に近いほど治療で命を救えるがん、逆に0%に近いほど治療で命を救うのは難しいがんであることを意味しています。06年から08年にがんと診断された人の5年相対生存率は、男女合計で62.1%(男性59.1%、女性66%)でした。大ざっぱにいえば、がんと診断された人の半数は治るということです。

治癒しても安心はできない

 さて、がんの治療が終わって治癒した人、あるいは現在治療中の人をキャンサー(がん)・サバイバーと呼んでいます。キャンサー・サバイバーの中には、社会復帰を果たした人もたくさんいます。仕事を続けながら悪性新生物(がん)の治療で通院している人は32.5万人いると言われており、厚生労働省はキャンサー・サバイバーの就労や仕事と治療の両立の支援を積極的に行っています。

 がんの治療に用いられる薬剤には、がん組織以外の正常な組織にも副作用という形で多くの影響が出てきます。例えば、甲状腺機能の低下、骨密度の低下や骨粗しょう症の増加、不妊、心臓や肝臓、腎臓の機能の低下、肺の線維症あるいは炎症などです。

 実際、ホジキンリンパ腫という血液の病気で小児期、あるいは青年期に治療を受けた人の約半数は、50歳になった時に心臓の血管に疾患があると言われています。また、小児期のがんが治癒した人のうち約7割から8割の人は、慢性的な疾患を抱えているとも言われています。

がん治療を受けた人はフレイルになりやすい

 加齢の影響は、実年齢と(老化の度合いを示す)生物学的な年齢の違いにもよりますが、活性酸素への対応力や外的環境からのストレスに対する適応力に表れます。これまで見てきたように、活性酸素や外的なストレスはともにテロメアを短くします。

 加齢とともに低体重、筋肉量の低下、歩行速度の減少、代謝の低下などが生じ、自分の体の機能を正常に保ちにくい虚弱な状態をフレイルと呼んでいます。

 現在、65歳以上の人のうち、約10%がフレイルと考えられていますが、例えば、白血病で骨髄移植を受けた患者は、64歳以下でもフレイルの割合が同じ年代の一般の人より約10倍高くなっています。

 小児がんの治療を受けた人は、治療から10年以上が経過した後、男性の3%、女性の13%にフレイルが見られたという報告もあります。

 また、成人のキャンサー・サバイバーは加齢が早く進行することがあります。例えば、認知機能の衰え、骨粗しょう症、皮膚や目の老化、性機能の低下、慢性の疲労などです。また、筋肉の機能異常もよく起こります。さらに、抗がん剤に合わせてステロイド剤を使うことによって、白内障や骨粗しょう症、筋炎になったり、皮膚の菲薄(ひはく)化(肌が薄く、弱くなること)、創傷治癒の遅延が起きたりすることがあります。

短くなったテロメアを伸ばすには?

 こういった結果から、キャンサー・サバイバーは同じ年代の人よりも早く加齢の影響を受けるという指摘があります。加齢の生物学的現象としては、テロメアの短縮、細胞の老化、そして肝細胞の数の減少、DNAの変化が挙げられます。

 特に、テロメアが短くなると血液の幹細胞も少なくなることが指摘されています。また、抗がん剤を使った治療に伴い、DNAが損傷を受けて細胞が老化するという現象も見られます。このように、がん治療によってテロメアが短くなってしまった場合に、テロメアの長さを復活させる方法はあるのでしょうか。

 最近の研究では、遺伝子の異常でテロメアを伸ばすことが困難な患者に対し、男性ホルモンを投与することで、テロメア減少を防ぐことが報告されています。

 今後、キャンサー・サバイバーにおいては、アンドロゲン(男性ホルモン)の投与も選択の一つになるかもしれません。

 また、抗がん剤治療によって皮膚は乾燥しやすくなります。表皮基底細胞(四つの層からなる表皮の最も深い部分にある層。皮膚の細胞の供給を行っている)の細胞分裂がうまくいかなくなるため、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)が極端に遅れるためと考えられます。乳がんで乳房を切除した後に抗がん剤治療を行った人が乳房を再建する場合、皮膚の状態が成否の鍵を握ると言われています。現在では、抗がん剤治療の後に皮膚の保湿性を高める商品も出ています。

 これまで、がんは生死を分ける大変な問題であり、治療の後の人生についてはあまり考慮されてきませんでした。今後、多くの患者が治療によって治癒すると同時に、適切なアンチエイジングを行い、がん治療の後も他の人と同じように人生を楽しめるよう、医学が進歩していくことを願っています。

 今回はアオハルクリニック(東京都港区)、小柳衣吏子先生から情報提供を受けています。

堀江 重郎
プロフィル
堀江 重郎( ほりえ・しげお
 順天堂大学大学院教授。泌尿器科医。日米で医師免許を取得し、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学を学ぶ。国立がんセンター中央病院、帝京大学教授などを経て、2012年より現職。アンチエイジング医学を研究する医師が集う日本抗加齢医学会理事長。手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を駆使する泌尿器科医のトップランナーとしても知られる。
502007 0 アンチエイジングな生活 2019/03/22 13:01:00 2019/04/08 11:01:07 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190322-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

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