全ゲノム解析、野心的なアンチエイジング研究始動

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

順天堂大学大学院教授、泌尿器科医 堀江重郎

 今、私たちはスマホなどの機器を使いこなし、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やネットショッピングといったサービスを普通に利用する日々を送っています。

 こうした情報技術(IT)に囲まれた生活が可能になったのは、半導体の性能が向上し、コンピューターの計算速度が著しく速くなったからです。

 米国の著名なジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏の著書で、最近話題になっている『遅刻してくれてありがとう』(日本経済新聞出版社)では、アップルがiPhoneを発表し、フェイスブックやツイッターが世界的に広まった2007年をIT技術開発の大きく進んだ年と位置づけています。

IT発展の恩恵、DNA解析にも

写真はイメージです
写真はイメージです

 ITのすさまじい発展の恩恵は、生命科学の分野にも及んでいます。私たちの遺伝をつかさどるDNA(デオキシリボ核酸)の配列も、1990年から2003年にかけて行われたヒトゲノム計画(Human Genome Project)により、ほぼすべてが解読されています。

 15年ほど前には、1人のDNAを解析するのに100億円の費用と数年ほどの時間がかかりましたが、今なら費用は約10万円、時間は1日でできてしまいます。

 DNA配列を解読することをシーケンシングと言いますが、現在は、遺伝子の塩基配列を高速で読み出すことができる「次世代シーケンサー」という機器が活躍しています。大量の情報処理が可能になったのも、ITの発展のおかげなのです。

病気のかかりやすさにも関係する遺伝子多型

 人類のDNAを調べていくと、約16万年前にアフリカにいた一人の女性(ミトコンドリア・イブ)に行きつくことが知られています。そこから世代交代を繰り返してきた私たちのDNAは、同じ人間であっても一人ひとり少しずつ違っています。この違いを遺伝子多型と言い、体の特徴、性格や行動といった人の個性に関するもの、そして病気のかかりやすさに関係することがわかってきています

 最近の研究によって、遺伝子からその人の顔がかなりの精度で推測できることが報告されています。もし織田信長や豊臣秀吉のDNAがあれば、彼らが本当はどういう顔だったかもわかってしまうのです。

これからは「遺伝子息災」の時代

 遺伝子多型、つまり遺伝子で他の人と異なる部分を調べることで、病気のリスクを教えてくれるサービスが最近、話題になっています。遺伝子多型は、病気のかかりやすさ、すなわちリスクに関係します。

 もちろん、病気になるかならないかは環境因子や生活習慣も関わってきますが、あらかじめ自分のリスクを知っていれば、健康管理に役立てることができます。例えば、大腸がんのリスクが高いとわかっていれば、定期的に検診を受け、食事の内容や普段の運動にも注意を払うことができます。

 一つぐらい病気を持っていた方が、かえって健康に気をつけて長生きできるという意味で、「一病息災」という言葉がありますが、これからは「遺伝子息災」というわけです。自分のゲノムを知ることをパーソナルゲノムと言いますが、17年には世界で約2400万人が遺伝子検査を受けました。

日本抗加齢医学会の新プロジェクト

 ただ、我々の遺伝子=ゲノムには、アミノ酸に翻訳される部分と、活動を調節する領域、そして何をしているかわからない領域があります。アミノ酸に翻訳される部分以外の領域は、まだまだわからないことが多いのが実態です。この解明には、ゲノムをすべて解析する全ゲノム解析(Whole Genome Sequencing: WGS)が必要です。

 そこで、アンチエイジングに興味のある医師、研究者、医療従事者が集う「日本抗加齢医学会」は4月25日、会員が自らWGSを行い、自身の加齢の進み具合と遺伝子の関連を解析する研究を始めることを発表しました(発表文はこちら)。

 アンチエイジング医学を学んだ者がWGS解析を受け、自らの加齢度とどういう関係があるかを調べることで、アンチエイジング研究に新たな地平を切り開こうというわけです。

 この研究から、どの遺伝子が加齢に関係するか、あるいは海外で既に加齢のスピードと関係あると言われている遺伝子が日本人の場合にも当てはまるのか、また、どのような生活習慣があれば、疾患リスクが減るかがわかってくる可能性があります。

 WGSのパーソナルゲノムに基づく研究は、ハーバード大学をはじめ海外でも行われていますが、いまだ規模が小さいのが現状です。今回の日本抗加齢医学会によるアンチエイジング・ゲノム研究は世界初の試みであり、成果にぜひ注目していただきたいと思います。

堀江 重郎
プロフィル
堀江 重郎( ほりえ・しげお
 順天堂大学大学院教授。泌尿器科医。日米で医師免許を取得し、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学を学ぶ。国立がんセンター中央病院、帝京大学教授などを経て、2012年より現職。アンチエイジング医学を研究する医師が集う日本抗加齢医学会理事長。手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を駆使する泌尿器科医のトップランナーとしても知られる。

無断転載禁止
556776 0 アンチエイジングな生活 2019/04/26 17:00:00 2019/04/26 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190425-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

おすすめ記事

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ