AI時代、思いやりにあふれた医療の実現を

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順天堂大学大学院教授、泌尿器科医 堀江重郎

 風薫る5月が終わり、関東でもまもなく梅雨の到来となるでしょう。人工知能(artificial intelligence: AI)の医療への応用を研究するため、最近、米国のボストンに行ってきました。ボストンは抜けるような青空でしたが、同じ米国でも中央部のオクラホマ州では大雨が降ったり、竜巻が起きたりと、異常気象に見舞われていました。

医療分野のAI活用、まだまだ

写真はイメージです
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 さて、AIの技術は、自動運転やネット広告をはじめ、あらゆる場面で活用されるようになってきました。牧場で、AIを搭載したロボットが、搾乳から牛の健康管理まで自動的に行っているという文章を読むと、AIの進化に驚きます。

 この一方で、AIが急速に普及するにつれて、これまで人間が担ってきた多くの仕事がAIに取って代わられるのではないか、という話もよく聞きます。 

 実は、医療分野へのAI導入はあまり進んでいません。導入するには膨大なデータをコンピューターに与えて学習させる必要がありますが、このデータをどのように用意するのかが、なかなか難しいのです。

 例えば、患者さんのカルテの記載方法は、病院ごと、診療科ごと、医師ごとに異なります。従って、AIを医療に活用するには、ばらつきのないデータをどうやって準備するかがカギを握ります。残念ながら日本のカルテは、てんでばらばらなのが現状と言ってもよいでしょう。

医師の診察を手助けする可能性

 むしろ、注目されているのは、これまで医師が行ってきた「診察」をAIがするかもしれない、ということです。

 例えば、私たちが家族のだれかに「今日はちょっと元気がないね」と話しかける時は、声の高さ、顔色や表情、目線、しぐさ、身ぶり手ぶりの大きさがいつもと違う、といったことから判断しています。

 こうしたちょっとの違いが、体調や精神状態がいつもと同じでないことを表していることは、普段、生活を共にしている家族ならすぐにわかります。でも、たまにしか会わない医師は、気が付かないことが多いのです。

 昔の医師は、打診、聴診といった診察手技を行いながら、普段の印象との違いを探していました。しかし、現在の診察は、採血やレントゲンなどの検査、あるいは患者さんの症状を記した問診票を専ら頼りにするだけで、おそらく、脈ひとつとることも(まれ)になっているでしょう。それでは、普段との違いを見抜くことは難しいと思います。

日々のデータを収集し、健康管理

 今、毎日の声の音質、顔の表情、脈拍数や呼吸数、心電図のパターン、睡眠のパターン、交感神経の緊張度、歩くスピード、肌の水分量、体重、体脂肪などを、スマートフォンやスマートウォッチなどで測定し、収集することができます。

 こうしたデータを数多く集めることで、AIは自分でも気づきにくい体調の良し悪しを判断できるようになります。アンチエイジングの基本である「ハツラツ」としているかどうかも、教えてくれるのです。

 これまで年1回だった検診を毎日受け、結果をリアルタイムで知ることができるようになりますし、うつ病や認知症の超早期診断も可能になります。もちろん、自分のDNA、あるいは腸内細菌のデータを加えることで、個人の体質を反映した緻密(ちみつ)な健康管理もできます。

 また、このような情報を家族内で共有することで、離れて住んでいる高齢の家族の健康状態も、リアルタイムで知ることができるようになります。

画像認識、機械学習を診察に活用

 優れた画像認識能力を持つAIは、たくさんのレントゲン画像を集めることで、異常のあるなしを区別できるようになります。

 医師が診断した画像をもとに判断することもあれば、医師の診断がなくても、AIがおのずと正常か異常かを見分けてしまう可能性もあります。

 例えば、乳癌の検診で用いられるマンモグラフィーは、なかなか読影が難しいことが知られています。癌とはっきりわかる場所の画像を何年かさかのぼって見直すと、その当時は判読できなかった病巣がわかることもあるぐらいです。ハーバード大学の研究では、AIは医師ですら気が付かない病変も指摘できることが実証されています。

 AIの力は、画像の判別だけでなく、内視鏡検査などでも医師の診断を助けてくれる可能性があります。

 医療設備が乏しい地域でマラリアの診断をするために、マラリアにかかっている人の血液中の白血球の形や動き方をAIが学習し、血液一滴からマラリアかどうかを診断することも可能です。

 このようにAIは、たくさんのデータから結論を導き出す能力に優れています。AIの信頼性が高まれば、医師が繰り返し行ってきた作業は減り、より人間的なふれあいをする時間が生まれるでしょう。AIが普及することで、医療は人に優しく、思いやりにあふれるものになってほしいと願っています。

プロフィル
堀江 重郎( ほりえ・しげお
 順天堂大学大学院教授。泌尿器科医。日米で医師免許を取得し、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学を学ぶ。国立がんセンター中央病院、帝京大学教授などを経て、2012年より現職。アンチエイジング医学を研究する医師が集う日本抗加齢医学会理事長。手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を駆使する泌尿器科医のトップランナーとしても知られる。

無断転載禁止
623775 0 アンチエイジングな生活 2019/06/06 13:48:00 2019/10/28 11:04:58 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190605-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

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