進化し続けるアンチエイジング医学
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加齢に伴う体の変化として臓器の機能が低下していくことを老化と言っています。加齢、すなわち生存時間が増えると、私たちの遺伝子にはさまざまな傷がつきます。遺伝子のコード(生命の設計図であるDNAは4種類の塩基配列により構成されています)が変化すると、遺伝子は機能が悪くなったり、あるいは制御不能になったりして、がんが発生する原因になります。
アンチエイジングは、この遺伝子に傷がつくことをなるべく食い止めるための方策です。一方、以前にも紹介しましたが、「老化」した組織が「若返る」ことは、実験医学の中では可能になってきました。例えば、高齢のネズミと若いネズミの血管をお互いのお
どうしてこのようなことが起こるのか? おそらく若いネズミの血液の中には、臓器を構成する細胞のもと(幹細胞といいます)があって、それが高齢マウスの臓器に加わったか、あるいは若いネズミの血液に、臓器を若返らせる成分(例えばホルモン)があるのだと考えられます。
ただし、残念ながら、この研究では遺伝子も変化していたかどうかは調べられませんでした。
加齢で変化するエピジェネティクス

さて、加齢による遺伝子の影響には、遺伝子配列そのものの変化に加えてもう一つ、エピジェネティクスと呼ばれる、遺伝子の働きを調節する部分の変化も関係します。
DNAは体の中のどの細胞でも同じですが、目の細胞と腸の細胞では働いている遺伝子が異なります。どの遺伝子のスイッチをONにして、どれをOFFにするかを決める仕組みがエピジェネティクスです。臓器の細胞には固有のエピジェネティクスのパターンがあると考えられます。
例えば、皮膚の細胞のエピジェネティクスをいったんリセットして、今度は肝臓の細胞のエピジェネティクスにする。これが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の基本的な考え方です。iPS細胞は体の中のどの細胞にも変化できるという意味で「万能細胞」とも呼ばれています。究極の若返りと言えるでしょう。
実は、このエピジェネティクスも加齢によって変化が起きることがわかっています。例えば、血液中の白血球のDNAのエピジェネティクスのパターンから年齢を推測できるとする報告が最近、出ています。つまり、エピジェネティクスは年齢を教える時計のようなもので、これまで生きてきた年数である「暦年齢」よりエピジェネティクス時計での年齢が若ければ、おそらくその人は長寿になるだろうと考えられます。
逆向きにも回せる「時計の針」
エピジェネティクスは、1回変わるとなかなか変わらないことが知られています。しかし、このエピジェネティクスの時計を若い年齢のほうへと逆向きに回せることが、最近の研究でわかりました。
胸腺という組織は、免疫細胞を制御する役割を担っていますが、年齢とともに小さくなり、機能が低下していきます。その研究では、51~65歳の9人の男性に成長ホルモンと糖尿病の薬、そして男性ホルモンの一種であるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)を投与すると、免疫の司令塔である胸腺組織が再生することを発見しましたが、同時に、エピジェネティクス時計が治療前より若い年齢となっていたこともわかりました。この研究は対象の規模が小さい上、別のグループと比較していないことから、今後の検証が待たれますが、興味深い結果であることに変わりありません。
成長ホルモンは、加齢に伴って顕著に減少していくホルモンです。ホルモン環境を変えるとエピジェネティクス時計が逆回転することは、ホルモンがアンチエイジングに重要であるという大きな証拠になります。
また、がん治療では、免疫細胞の力が欠かせませんが、先ほどの研究にあったような治療により、免疫細胞の力が落ちてがんが進行することを止めることができる可能性もあります。
アンチエイジング医学は、最先端の医学として今もどんどん進化しているのです。
